なぜお酒を飲んだあと、「締めのラーメン」や甘いものが無性に食べたくなるのか
飲んだ後、あれほど食べたのに締めのラーメンや甘いものに手が伸びる。意志の弱さではなく、満腹ホルモンの抑制、脳の空腹神経の興奮、水分の喪失と渇きという複数の仕組みが重なった、かなり理にかなった欲求だった。その正体を科学の視点から読み解く。
飲み会の帰り道、あれほど食べたはずなのに、灯りのついたラーメン屋の前で足が止まってしまう。ウイスキーを重ねた夜ほど、締めの一杯や甘いものが無性に恋しくなる——この現象は意志の弱さでも食い意地でもなく、体の中で起きている化学反応の結果だ。なぜ飲んだあとに限って、胃はまだ余白があると訴えてくるのか。
満腹の合図が届かなくなる
食べすぎを止めてくれるのは、脂肪細胞が出す「レプチン」というホルモンだ。血中のレプチンが増えると脳は「もう十分だ」と判断し、食欲にブレーキがかかる。ところが健康な人でも、アルコールを摂ると日中・夜間ともにレプチンの分泌が有意に低下することが報告されている。ブレーキ役が薄まれば、食欲を促す神経ペプチドY(NPY)の働きが相対的に強まり、満腹のはずの体が「まだ食べられる」と錯覚する。飲んだ席で料理がどんどん進むのは、この仕組みが一因と考えられている。
脳の「空腹スイッチ」が直接押される
さらに踏み込んだ発見もある。ロンドンのフランシス・クリック研究所が2017年に発表したマウス実験では、飢餓のときに激しい空腹感を生む視床下部の「AgRP神経」が、食事量に相当する濃度のエタノールに曝すだけで電気的・生化学的に過剰興奮した。しかもこの神経の活動を止めると、アルコールによる食べすぎが起こらなくなった。つまりアルコールは、栄養が足りているかどうかとは無関係に、空腹のスイッチそのものを押してしまう可能性がある。俗に言う「食前酒(アペリティフ)が食欲を誘う」経験則に、神経科学の裏づけが与えられた格好だ。ただしこれはマウスでの知見であり、ヒトでそっくり同じかは慎重に見る必要がある。
なぜ「甘いもの」や「ラーメン」なのか
飲んだあとに炭水化物が恋しくなる背景には、血糖の事情もよく挙げられる。肝臓はアルコールの分解を最優先するため、血糖を保つためのブドウ糖合成(糖新生)が後回しになり、血糖が下がりやすくなる。脳の主な燃料はブドウ糖だから、糖が細るとまず手早いエネルギー源である糖質を求める、という説明だ。もっとも、少量〜中等量の飲酒では血糖やインスリンがほとんど変わらなかったとする報告もあり、血糖低下だけで全てを説明するのは行き過ぎになる。実際には前述のホルモンや神経の働きが重なった、複合的な現象と見るのが妥当だろう。
そのうえで、締めに「ラーメン」が選ばれやすいのには理由がある。アルコールには利尿作用があり、体は水分を多く失う。塩気のきいた熱いスープは、この渇きに直球で応える。加えて麺の糖質、だしのうまみ(グルタミン酸やイノシン酸)が一杯に凝縮されている。体が欲しがるものが、たまたま一杯の丼にほぼ揃っているのだ。
「本能」と上手につきあう
つまり締めのラーメンは、気の緩みというより、満腹ホルモンの抑制・空腹神経の興奮・水分の喪失と渇きが重なって生まれる、かなり理にかなった欲求だといえる。とはいえ理にかなっていることと、体にいいことは別の話だ。夜遅い高カロリーの一杯は睡眠中の消化に負担をかけ、翌朝の胃もたれや体重に跳ね返る。仕組みを知っておくと、「本能に流されているだけかもしれない」と一歩引いて選べる。どうしても食べたいなら小さめの一杯にする、まず水を一杯飲んでから考える——それだけでも、翌朝の自分への負担はずいぶん変わってくるはずだ。
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