アイラ島のピートはなぜ薬品っぽいのか
ラガヴーリンやラフロイグを口にしたときの、あの正露丸のような香り。その正体を、ピートの成り立ちと蒸留の観点から解き明かす。

アイラ島のシングルモルトを初めて口にした人の多くが、「薬っぽい」「正露丸のよう」「消毒液みたいだ」と表現する。だがこれは欠陥でも劣化でもない。アイラ島という土地と、そこで焚かれるピートの性質そのものに由来する、この島ならではの個性だ。なぜアイラのウイスキーだけがこれほど薬品的な香りをまとうのか、順を追って解き明かしていこう。
そもそもピートとは何か
ピート(泥炭)は、湿地に堆積した植物が長い年月をかけて炭化しきる前の状態で積み重なったものだ。これを掘り出して乾燥させ、麦芽づくりの乾燥工程で燃やすと、その煙に含まれる香りの成分が湿った麦芽の表面に吸着する。こうしてスモーキーな原酒の素地が生まれる。工程の詳細は製法解説も参照してほしい。
アイラのピートは「海」でできている
同じピートでも、産地によって中身はまるで違う。内陸のピートは樹木やヒースが主体で、土っぽく木質的な煙になりやすい。一方、四方を海に囲まれたアイラのピートには、堆積した海藻や潮の成分が多く含まれる。この「海のピート」を燃やすからこそ、内陸のピートにはないヨードや潮を思わせる香りが立ちのぼるのだ。
薬品香の正体はフェノール類
鍵を握るのはフェノール化合物と総称される一群の成分だ。ひとくちにフェノールといっても種類があり、グアイアコールは焚き火のようなスモーキーさを、クレゾールやフェノールそのものは薬品的・消毒液的な香りを担う。アイラの海洋性ピートはこの薬品系フェノールを多く含むため、あの独特の「正露丸感」が際立つ。これらの成分は蒸留を経ても揮発しきらずに残るため、熟成を経たグラスの中でもはっきりと感じられる。
PPMという物差しとその限界
ピートの強さは、麦芽に含まれるフェノール量をPPM(百万分率)で表すことが多い。ノンピートに近いものから、アイラの強豪では50PPMを超えるものまで幅広く、35〜55PPMあたりが「しっかりピーテッド」の目安とされる。ただしPPMはあくまで麦芽段階の数値で、蒸留・熟成の過程で目減りするうえ、前述のとおりフェノールの「種類」によって香りの質そのものが変わる。数字の大きさだけでピートの個性は測りきれない。
まず一本挙げるなら
アイラの薬品香を最も分かりやすく体験できる一本が

だ。16年という長い熟成で角が取れているぶん、スモークやヨードの奥にある甘みや複雑さまでゆっくり味わえる。島の南岸キルダルトン地区は特に力強いピートで知られ、この一杯はその入り口にふさわしい。
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