なぜお酒(ウイスキー)を飲むと、翌朝おなかを下すのか——腸が水を吸えなくなる、という話
飲んだ翌日の腹具合は、気のせいでも体質だけの問題でもない。アルコールが腸で水を吸わせず、腸のリズムを狂わせ、粘膜と腸内細菌を乱すしくみと、度数の高いウイスキーならではの「濃さ」の注意点、受診を考えるべきサインまで。
「昨日はつい飲みすぎた」という翌朝、頭の重さより先におなかがゆるいことがある。二日酔いほど大げさではないけれど、一日の調子を地味に削っていく。
これは気のせいでも、体質だけの問題でもない。アルコールは腸に対して、はっきりした作用をいくつも持っている。この記事では、飲んだあとにおなかを下すしくみを整理したうえで、度数の高いウイスキーならではの「濃さ」の注意点、そして「これは飲みすぎのせいではないかもしれない」という見分け方までをまとめる。
先に一つだけ書いておくと、ほんの少ししか飲んでいないのに毎回下痢をするという人は、この記事の話(飲みすぎたときに起きること)とは別の背景を疑ったほうがいい。詳しくは最後の節で触れる。
そもそも下痢は「腸で水が余る」と起きる
便がゆるくなる理屈は、意外と単純だ。私たちの体は、飲み食いした水に加えて、唾液・胃液・腸液・胆汁といった消化液も合わせて、毎日かなりの量の水を腸に流している。そのほとんどを小腸と大腸が吸い戻すことで、便はようやく固まる。
つまり下痢とは、「腸が水を吸えなかった」か「腸が水を吸う前に中身を送り出してしまった」かのどちらか、あるいは両方だ。アルコールは、その両方に手を出す。
アルコールが腸でやっている四つのこと
1. 水と電解質を吸わせなくする
まず、アルコールを大量に摂ると、腸管で水分やナトリウムなどの電解質が十分に吸収されなくなる。吸収されずに残った電解質などが腸内の浸透圧を高め、そこへ水が引き込まれて便がゆるくなる——いわゆる浸透圧性の下痢だ(札幌大通胃と大腸の内視鏡クリニック、日本橋人形町消化器・内視鏡クリニック)。動物・ヒトの研究をまとめた総説でも、エタノールが空腸での水分吸収を妨げること、糖やアミノ酸の吸収も落ちることが報告されている。
2. 腸のリズムを狂わせる
同時に、アルコールは腸の動き(蠕動運動)に干渉する。米クリーブランド・クリニックの解説では、アルコールが腸に水を引き込み、消化管の収縮を速め、腹痛や便意の切迫につながると説明されている。国内のクリニックの解説では「腸の動きが乱れる」という言い方をする。動きが速まった場合には、水を吸うのに要る時間がそのぶん奪われることになる。
3. 粘膜を荒らす
アルコールは腸の粘膜そのものにも負担をかける。一定量以上の摂取では、絨毛の先端が鈍くなる、炎症細胞が入り込む、細胞間のバリア(タイトジャンクション)がゆるんで腸の透過性が上がる、といった変化が動物とヒトの研究で報告されている。荒れた粘膜は水を吸う働きも落ちると考えられる。
4. 腸内細菌のバランスを崩す
さらに、アルコールやその代謝物であるアセトアルデヒドは、腸内細菌の構成を乱すとされる。ビフィズス菌などが減り、腸内環境が悪化することが下痢につながるという指摘は、国内の消化器クリニックの解説でも共通している。
ウイスキーで気をつけたいのは「濃さ」
ここからがウイスキー特有の話だ。40%前後という度数は、5%前後のビールのおよそ8倍にあたる。同じ純アルコール量でも、ストレートであおれば、口から胃にかけての粘膜が一度に浴びるアルコールの濃度は跳ね上がる。
高濃度のアルコールを摂ると、胃粘膜に出血やびらんが生じると説明される(西山クリニック)。これは胃の話であって腸で起きることの直接の説明ではないが、消化管の入口の粘膜が高い濃度で傷つけられるという点で、無視できる話ではない。
ここで一つ注意しておくと、薄めて飲んでも体に入るアルコールの総量が減るわけではない。同じ資料では、吸収そのものは20%前後の濃度がもっとも進むとも説明されている。それでも水割りやハイボールの形が消化管に優しいのは、高濃度のアルコールが粘膜に直接触れずにすむこと、そして自然に一杯が長くなってペースが落ちることのほうにある。チェイサーを挟むのも、口と胃の中のアルコール濃度を下げるという同じ理屈だ。
犯人が酒そのものではないこともある
飲んだ翌日の不調を全部ウイスキーのせいにすると、対策を間違える。
ひとつは、割りものだ。クリーブランド・クリニックは、ビールや甘い飲料は糖質が多く、腸内細菌がそれを発酵させてガスや下痢の原因になりうること、カフェイン入りの飲料と合わせると腸への刺激と脱水が重なって悪化しうることを挙げている。つまり腸を騒がせる経路は「アルコールの濃さ」だけでなく「糖質」にもあり、この二つは別物だ。ウイスキーそのものは糖質がほぼゼロなので、後者の点では負担の少ない酒といえる。逆に言えば、甘いリキュール割りやジュース割りにすると、その利点は消える。
もうひとつは、つまみと締めの一杯だ。揚げ物や脂の多い料理は、それだけで腸に負担をかける。飲んだあとにのには理由があるが、脂と塩と炭水化物を深夜に流し込めば、翌朝の腹具合は推して知るべしだ。
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