なぜお酒を飲むと、タバコが吸いたくなるのか——「飲みの席でだけ一本」の正体と、二つを重ねたときの食道がんリスク
飲み会でだけタバコに手が伸びるのは気のせいではない。アルコールは実験でも量に応じて「吸いたさ」を高める。眠気の打ち消し説、脳の受容体の共有、条件づけ、そして日本の16万人解析が示す食道がんリスク(吸わず飲まない人の8.86倍)までを整理する。
飲み会も終盤になると、ふだんタバコを吸わない人が「一本だけちょうだい」と手を伸ばす。何か月も禁煙を続けてきた人が、酒の席でだけ崩れる。酒とタバコの結びつきは、多くの人が一度は見聞きしているはずだ。
これは雰囲気や習慣だけの話なのか。それとも、アルコールそのものが「吸いたい」気持ちを押し上げているのか。この記事では、実験で確かめられていることと、まだ仮説の段階にあることを分けて整理する。最後に、二つを重ねたときの健康上のリスクにも触れておきたい。
アルコールは、実験でも「吸いたさ」を上げる
まず、雰囲気ではなくアルコールそのものが効いているのかどうか。これは実験室で確かめられている。
2005年、米国の研究者アンドレア・キングらは、大量飲酒の習慣がある軽い喫煙者16人に、日を変えて3種類の飲み物を飲んでもらった。味をごまかすためにアルコールを1%だけ入れた偽薬、およそ2杯分、およそ4杯分の三つだ。参加者は実験の2時間前から終了まで、タバコを吸えない。
結果、アルコールを飲んだ日は偽薬の日より、吸いたい気持ちがはっきり強まった。強まったのは「気分を上げたいから吸いたい」という種類の欲求で、4杯分の日がもっとも強かった。一方、イライラや不快感を和らげたいという種類の欲求には、はっきりした差は出なかった。
2007年には同じグループが、ふだん少ししか吸わない「チッパー」と呼ばれる人たち39人で同様の実験を行っている。結果はやはり、飲む量に応じて吸いたさが強まるというものだった。多めに飲んだ日は、血中アルコール濃度が上がっていく途中で欲求が強まっていた。
2014年には別の研究グループが、実際に「どれだけ我慢できるか」を測った。多めのアルコールを飲んだ日は、偽薬の日に比べて、タバコに手を伸ばすまでの時間が18.5%短くなった。
「眠気を打ち消すため」だけでは説明しきれない
よく聞く説明に、「酒で眠くなるのを、ニコチンの覚醒作用で打ち消している」というものがある。これは半分は当たっている。
1995年のパーキンスらの実験では、ニコチンを併用すると、アルコールによる眠気や酔いの感じ方の一部が弱まった。ラットの実験でも、ニコチンが前脳基底部という部位に働いて、アルコールの眠りを誘う作用を抑えることが報告されている(ミズーリ大学、2015年)。
ただ、先のチッパーの実験では、気分を上げたいタイプの吸いたさの強まりを部分的に説明していたのは、眠気ではなく、アルコールによる「高揚感」のほうだった。気分が上がっているところに、さらに上乗せしたくなる。欲求の中身は、眠気の穴埋めというより、楽しさの足し算に近いのかもしれない。
もっとも、2014年の実験では高揚感も眠気も吸いたさをうまく説明しなかった。何が欲求を押し上げているのかは、研究によって答えが割れている。
脳の中で、同じ入り口を共有している可能性
なぜアルコールがタバコへの欲求に結びつくのか。脳の側からの説明として有力なのが、快感にかかわる神経回路の共有だ。
ニコチンが働きかけるのは、ニコチン性アセチルコリン受容体と呼ばれる受容体である。ところが動物実験では、アルコールが快感にかかわる物質ドーパミンを増やす過程にも、この受容体が関わっていることが示されている。ラットの脳の腹側被蓋野という部位に、この受容体を塞ぐ薬(メカミラミン)を流すと、アルコールによるドーパミンの増加が打ち消された(ブロムクヴィストら、1997年)。
つまりアルコールとニコチンは、脳の中で入り口の一部を共有している可能性がある。片方で回路が動き出すと、もう片方も欲しくなりやすい、という見方だ。ただし、どの受容体がどう関わるのかは研究によって結果が分かれており、全体像はまだ固まっていない。
「飲み会=一服」という記憶も引き金になる
もう一つの要素が、条件づけだと考えられている。何度も一緒に摂ってきたものは、片方が来るともう片方が欲しくなる。酒の席、グラスの音、乾杯のあと——そうした場面そのものが、吸いたい気持ちの引き金になりうる。
これは禁煙の現場でも重く見られている。2014年の論文は、禁煙中の人が最初に吸ってしまう場面のおよそ4分の1に飲酒が関わっている、という先行研究を引いている。禁煙を続けたい人が、少なくとも最初のうちは酒の席を控えるよう助言されるのも、こうした理由からだ。
二つを重ねると、リスクは足し算を超える
ここからは健康の話になる。
日本の8つのコホート研究、男性16万2,826人を統合した解析(国内の研究班、筆頭著者は愛知県がんセンター、2019年)では、喫煙も飲酒もしない人と比べた食道がんのリスクは、飲酒はせず喫煙経験だけがある人で2.92倍、喫煙はせず飲酒経験だけがある人で2.73倍だった。そして両方そろうと8.86倍になる。
それぞれが単独で上乗せする分を足し合わせても、およそ4.7倍にしかならない。実際の8.86倍はそれを大きく上回る。論文は、両者の組み合わせがリスクを単純な足し算以上に押し上げる「正の交互作用」があると結論づけている(なお、二つの倍率を掛け合わせた値〔約8倍〕とは統計的な差がなかった)。
酒を片手にタバコをくゆらせる姿は、バーの風景としては絵になる。だが体にとっては、もっとも避けたい組み合わせの一つだ。飲むと顔が赤くなりやすい体質の人は、飲酒による食道がんのリスクがより高いとされる点も覚えておきたい(顔が赤くなる体質の話)。
店の側の景色も変わった
日本では2020年4月、改正健康増進法の全面施行によって、飲食店は原則として屋内禁煙になった。例外として、喫煙専用室などの設備を設けた店のほか、2020年4月1日時点で営業していた客席面積100平方メートル以下・資本金5,000万円以下の小規模店(届け出が必要)や、喫煙を主な目的とするバーなどの「喫煙目的施設」では、店内での喫煙が認められている(自治体の条例で、より厳しい規制がかかる場合もある)。
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