ボイラーメーカーとは何か——ビールとウイスキーを「並べて飲む」一杯は、なぜ世界中の酒場にあるのか
ウイスキーのショットとビールを組み合わせる「ボイラーメーカー」。名前が定着したのは1930〜40年代のアメリカ。同じように混ぜずに並べる飲み方は、スコットランドの「ハーフ・アンド・ア・ハーフ」やフィラデルフィアの「シティワイド」など各地にある。歴史と合わせ方を整理する。
居酒屋で生ビールを頼み、ついでにウイスキーをショットで一杯。日本では、そんな頼み方をする人はまだ多くない。
ところが海外の酒場では、ビールとウイスキーの組み合わせが一つの「一杯」として名前を持っている。アメリカなら「ボイラーメーカー」、スコットランドなら「ハーフ・アンド・ア・ハーフ」。
この記事では、ボイラーメーカーという名前がいつ生まれたのか、世界の酒場にどんな「ビール+蒸留酒」の型があるのか、そして家で試すならどう合わせればいいのかを整理する。
ボイラーメーカーは「混ぜる」より「並べる」
まず定義から。アメリカでいうボイラーメーカーは、ウイスキーのショットとビールの組み合わせを指す。飲み方は大きく二つある。
- 並べる: ショットとビールを別々に出し、ウイスキーを飲んでからビールで追いかける。「ショット・アンド・ア・ビア」とも呼ばれる。
- 混ぜる: ショットをビールに注ぐ。ショットグラスごとビールのグラスに沈める形は「デプスチャージ(爆雷)」と呼び分けられる。
映画やテレビで目を引くのは後者だが、伝統的な形として語られるのは前者だ。
なお、同じ言葉でもイギリスでは意味が違う。英国のボイラーメーカーは、マイルド・エールと瓶のブラウン・エールを半パイントずつ混ぜた、ビール同士の一杯を指す。海外の資料を読むときは気をつけたい。
名前が定着したのは、意外に新しい
ボイラーメーカーという名前は、蒸気機関のボイラーを造る職人に由来すると説明されることが多い。重労働のあとに、ショットとビールで一日を締めた——という筋書きだ。ただし定説ではなく、「起源ははっきりしない」とする資料も多い。
文献で追える範囲では、名前は意外に新しい。『The Oxford Companion to Spirits & Cocktails』の「Boilermaker」の項(デイヴィッド・ウォンドリッチ執筆)によると、ビールとウイスキーを混ぜた飲み物は19世紀末から別の名前で記録がある。一方、混ぜない組み合わせに定着する名前が付いたのは1930年代だった。
当初の呼び名は「ボイラーメーカー・アンド・ヒズ・ヘルパー(ボイラー職人とその助手)」。1940年代までに「ボイラーメーカー」へ縮まった。それでも1948年の時点で、コラムニストのビリー・ローズは「ストレートのライに、ビールのチェイサー」と読者に説明を添えていたという。ショットを沈める「デプスチャージ」の呼び名が出てくるのは1950年代だ。
同じ事典は、ボイラーメーカーをアメリカの飲酒文化における「比較的遅れてきた存在」と位置づけている。ショットとビールを一緒に頼むこと自体はもっと前からあり、名前があとから追いついた——そう読むのが自然だろう。モンタナ州の鉱山町ビュートでは「ショーン・オファレル」と呼ばれる、という話も伝わるが、裏づけは乏しい。
世界の酒場にある「ビール+蒸留酒」
ビールと蒸留酒を一組で頼む習慣は、アメリカだけのものではない。
スコットランドの「ハーフ・アンド・ア・ハーフ」。黒ビールと淡色ビールを混ぜる「ハーフ&ハーフ」とは別物だ。スコットランド語辞典(Dictionary of the Scots Language)には「a hauf an a hauf」として、小さなグラスのウイスキーと半パイントのビールの組み合わせが載っている。「ハーフ(hauf)」は、ウイスキーの小さな1杯(半ギル)を指す言い方で、1888年の用例がある。グラスゴーの言葉を集めた1985年の本は、これを「昔からの組み合わせ」と紹介している。
ボイラーメーカーと同じく、基本は混ぜずに並べる。違うのは飲むペースで、ショットを一気にあおるより、ウイスキーとビールを交互にゆっくり飲む。組み合わせの例としては、ラガーにベルズやフェイマスグラウスといったブレンデッドスコッチがよく挙がる。

このコラムの関連
次に読む

なぜハイボールは唐揚げに合うのか——「炭酸が脂を流す」は本当か。渋みと脂の「綱引き」から読み解く
唐揚げにハイボールが合う理由は「炭酸が脂を洗い流すから」とよく言われる。だが、それを直接確かめた研究は見当たらない。確かめられているのは、渋みが脂のぬるっとした感覚を打ち消すこと。炭酸・度数・苦み・冷たさから、あの相性を分解する。

サゼラックの作り方——ライ・角砂糖・ペイショーズ・アニスの香り。グラスを2つ使う「リンス」の手順と代用のコツ
ニューオーリンズ生まれの古典カクテル、サゼラック。本家サゼラック社のレシピを土台に、グラスを2つ使う作り方、砂糖・ステア・リンスの3つのコツ、ライの選び方、エルブサントやビターズが無いときの代用までを解説する。








