なぜウイスキーはワインのようにグラスをぐるぐる回さないほうがいいのか——スワリングの落とし穴
バーで通っぽくグラスを回す仕草。ワインでは香りを開かせる合理的な作法だが、度数の高いウイスキーで同じことをすると、立ちのぼるエタノールがかえって繊細な香りを覆い隠してしまう。ワインとの決定的な違いと、「回すなら軽く一度で休ませる」という勘どころを読み解く。
バーで慣れた人が、ウイスキーの入ったグラスを手首でくるりと回す——あの仕草には、どこか「通」の風格がある。ワインのテイスティングでおなじみのこの動作を、同じ香りを楽しむ酒だからとウイスキーでも真似したくなる人は多い。ところが専門家の多くは「ウイスキーはワインほど回さないほうがいい」と口をそろえる。同じように香りを味わう酒なのに、なぜ扱いがこれほど違うのだろうか。
ワインを「回す」のにはちゃんと理由がある
ワインをグラスの中で回す動作は「スワリング」と呼ばれ、単なる作法ではない。液体を内壁に沿って広げることで空気に触れる表面積が増え、香りのもとになる揮発性の成分が立ちのぼりやすくなる。同時にワインが酸素と触れて酸化がゆるやかに進み、若い赤ワインでは角のあるタンニン(渋み)がやわらぎ、閉じていた果実や花の香りがほどけていく。だからこそソムリエはグラスを回し、香りを「開かせて」から鼻を近づける。
つまりワインのスワリングは、「酸素にあてて開かせる」ための理にかなった手順なのだ。そしてこの習慣があまりに広く知られているために、私たちはつい、香りを楽しむ酒ならどれも同じように回せばいいと思い込んでしまう。
ウイスキーは、事情がまるで違う
落とし穴は、ウイスキーがワインとは別物だという点にある。ワインのアルコール度数がおおむね12〜14%なのに対し、ウイスキーは40%、カスクストレングスなら60%前後にもなる。この度数の高さが、スワリングの意味を変えてしまう。
グラスを勢いよく回すと、香りの成分とともに、揮発しやすいエタノール(アルコール)が一気に立ちのぼる。ところが度数が高いぶん、鼻を近づけてもまず感じ取れるのはツンとくるアルコールの刺激ばかり。繊細な果実香やバニラ、樽の香りは、そのエタノールの壁の向こうに隠れてしまう。ウイスキーの風味の大半は舌ではなく鼻が受け取っているだけに、この「香りの入り口」がふさがれる影響は大きい。「香りを開かせる」どころか、逆に覆い隠してしまうのだ。
度数が高いほどこの傾向は強く、たとえば60%のシェリー樽原酒のような一本では、勢いよく回すと香りより先に鼻がしびれてしまいやすい。

もうひとつ、ウイスキーは酸素との反応がワインよりずっと遅い。ワインが開栓から数日で表情を変えるのに対し、開栓したウイスキーは(きちんと保管すれば)何ヶ月も大きくは損なわれない。数十秒回して急いで酸化させる必要は、そもそも乏しいのである。
このコラムの関連
関連するボトル


次に読む

ボイラーメーカーとは何か——ビールとウイスキーを「並べて飲む」一杯は、なぜ世界中の酒場にあるのか
ウイスキーのショットとビールを組み合わせる「ボイラーメーカー」。名前が定着したのは1930〜40年代のアメリカ。同じように混ぜずに並べる飲み方は、スコットランドの「ハーフ・アンド・ア・ハーフ」やフィラデルフィアの「シティワイド」など各地にある。歴史と合わせ方を整理する。

なぜハイボールは唐揚げに合うのか——「炭酸が脂を流す」は本当か。渋みと脂の「綱引き」から読み解く
唐揚げにハイボールが合う理由は「炭酸が脂を洗い流すから」とよく言われる。だが、それを直接確かめた研究は見当たらない。確かめられているのは、渋みが脂のぬるっとした感覚を打ち消すこと。炭酸・度数・苦み・冷たさから、あの相性を分解する。


