なぜウイスキーは冷凍庫に入れても凍らないのか
ビールやワインは冷凍庫でカチカチに凍るのに、ウイスキーは何時間入れても凍らずとろりとするだけ。この差は「アルコール度数」に隠れている。水とエタノールの凝固点の違いから、冷凍庫でウイスキーがとろむ仕組み、そして瓶が割れる意外な注意点までを読み解く。
冷凍庫に入れっぱなしにしたビールが凍って膨らみ、栓が押し上げられていた——そんな失敗をした人は少なくないだろう。ところが同じ冷凍庫に一晩入れたウイスキーは、凍るどころかとろりと重たくなるだけで、ちゃんと注げる。同じ「お酒」なのに、なぜこれほど差が出るのか。答えは、ラベルに書かれた「アルコール度数」に隠れている。
水とエタノールで、凍る温度がまるで違う
ウイスキーは、ざっくり言えばエタノール(アルコール)と水の混合物だ。この二つは、凍りはじめる温度が桁違いに違う。水が0℃で凍るのに対し、純粋なエタノールが固まるのはおよそマイナス114℃。家庭の冷凍庫では到底届かない低温だ。
お酒はこの二つが混ざっているため、凝固点は両者の中間あたりに落ち着く。しかも水にアルコールが溶けると、水そのものの凍る温度も引き下げられる(凝固点降下)。つまりアルコール度数が高いほど、凍りはじめる温度はぐっと低くなる。ビール(度数5%前後)やワイン(同12%前後)が冷凍庫で凍るのは、度数が低く凝固点が水に近いからだ。
40%のウイスキーは、家庭の冷凍庫では凍らない
市販のウイスキーの多くは度数40%前後。この度数だと凍りはじめる温度はおおむねマイナス25℃前後とされる(数値には諸説あり、原料や糖分でも多少変わる)。
一方、日本の家庭用冷蔵庫の冷凍室は、JIS規格でマイナス18℃を基準に設計されている。つまり冷凍庫の温度では、40%のウイスキーが凍る温度まで下がりきらない。これが「入れても凍らない」正体だ。度数の高いカスクストレングス(60%前後)ともなれば、凍る温度はさらに低く、まず固まらない。
凍らなくても「とろむ」のはなぜか
完全には凍らなくても、冷凍庫から出したウイスキーは明らかにとろりと重くなっている。これは低温で液体の粘度が上がるためだ。加えて、冷えるとアルコールの刺激的な香りが立ちにくくなり、口当たりがまろやかに感じられる。キリッと冷えた濃厚な一杯を好む人が、あえて冷凍庫で冷やすのはこのためだ。
ちなみに、氷点近くまで冷やしたウイスキーが白く濁ることがある。これは脂肪酸エステルなどの成分が低温で溶けきれなくなる現象で、品質の劣化ではない。濁りを嫌って冷却濾過(チルフィルタード)をかけるかどうかは、造り手の思想が分かれるところだ。
「凍らない」を過信しないための注意
もっとも、より低温になる業務用冷凍庫や、設定温度を下げすぎた場合には、40%程度でも部分的に凍ることがある。水分が先に凍ってシャーベット状になり、瓶の中で膨張して割れる恐れもある。実際、多くのメーカーは冷凍庫での保管を積極的には勧めていない。
まとめれば、ウイスキーが冷凍庫で凍らないのは、アルコールという「凍りにくい成分」を多く含むからにほかならない。ラベルの度数は、味わいだけでなく「凍りにくさ」まで語っている——そう思うと、あの数字が少し違って見えてくる。
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