なぜ「筋トレするなら酒はやめろ」と言われるのか——筋タンパク合成24%減という研究の中身と、その量がウイスキー何杯ぶんか
定説の根拠として引かれる「筋タンパク合成24%減」の研究を開けると、飲まれたのは体重70kg換算でウイスキー約330ml。プロテインで帳消しにできるのか、女性ではどうか、そして「何杯までなら」の目安まで、研究の中身に降りて確かめる。
ジムのロッカールームでも、トレーニング系の動画でも、判で押したように同じことが言われる。「筋トレしているなら酒はやめろ」。根拠として必ず出てくるのが「筋タンパク合成が24%落ちる」という数字だ。
ただ、その研究で被験者が何をどれだけ飲まされたのかまで確かめた話は、あまり見かけない。この記事では、定説の土台になっている研究を開けて、そこで飲まれた量がウイスキーに直すと何杯ぶんなのかまで降りて確認する。先に書いておくと、あの24%は日常の一杯を測った数字ではない。だからといって「飲んでいい」という話にもならないのだが。
「24%」の研究の中身
引かれるのはほぼ例外なく、2014年に PLOS ONE に載った豪州の研究だ。運動習慣のある健康な男性8名(平均79.3kg)が、筋力トレーニングと自転車のインターバルを続けて行ったあと、3つの条件で回復する。(1) ホエイプロテイン25gのみ、(2) プロテイン25g+アルコール、(3) 同じエネルギー量の糖質+アルコール。運動の1時間後から3時間かけて酒を飲み、8時間後まで筋肉を生検して、筋原線維タンパク質の合成速度(FSR)を測っている。
結果は、プロテインのみが0.052%/時、プロテイン+アルコールが0.039%/時、糖質+アルコールが0.032%/時。プロテインのみと比べて 24%減 と 37%減 である(いずれもP<0.05)。有名なのは前者の24%だが、この研究にはもう一つ検定された比較がある。糖質+アルコールは、プロテイン+アルコールよりさらに約18%低かった(P<0.05)。著者はこれを「プロテインのみと比べれば部分的な『救済』にとどまる」と表現している。プロテインは帳消しにはしないが、同じエネルギー量の糖質を摂った場合よりは高かった——これが3群を並べたときの正確な読み方だ。なお「酒だけ飲んで何も食べない」条件は、この研究には存在しない。
では、その酒量は。体重1kgあたり1.5g。ウォッカ約60mlをオレンジジュース約240mlで割ったものを、3時間かけて6回。論文は「12±2ドリンク」と書いている(豪州の1ドリンク=純アルコール10g。日本の「1単位=20g」とは別物なので注意)。平均79.3kgの被験者で純アルコール約119g、40度のウイスキーに直すと約370ml。体重70kgの人に当てはめ直すと105g、約330ml——シングル(30ml)で11杯、700mlボトルのおよそ半分だ。
著者らはこの用量を「アスリートのビンジ飲酒として報告されている量に基づいて」選んだと明記している。つまりこの研究が示したのは「トレーニング後にボトル半分空けると合成が落ちる」であって、「ハイボール1杯で落ちる」ではない。論文が限界として挙げているのは、生検が回復期の断片的なスナップショットであることと、クロスオーバー設計のため運動のみの対照試行を置けなかったこと。加えて筆者の側から言えば、被験者が男性8名だけという規模も小さい。資金は豪州スポーツコミッションの助成で、利益相反は存在しないと申告されている。
女性では「検出されなかった」研究がある
2017年の別の研究は、筋トレ経験のある男性10名・女性9名にスミスマシンのスクワットを6セットさせ、その後アルコール(ウォッカを水で15%に薄め、除脂肪体重1kgあたり1.09g)かプラセボを飲ませて、筋合成のスイッチにあたるmTORC1経路のリン酸化を追った。血中アルコール濃度で0.12g/dL前後を狙った設計で、除脂肪体重60kg(男性でおおよそ体重70kg前後)なら約65g——40度のウイスキーで約200ml、シングル7杯ぶんにあたる。
結果は、男性では運動3時間後のmTORとS6K1のリン酸化がプラセボより低く、女性では飲酒による差が検出されなかった。ただし3つ目の指標である4E-BP1については、男女どちらでも有意な効果は出ていない。著者の結論も「少なくとも男性においては(at least in men)」という留保つきである。
注意したいのは、男女は別々に解析されており、性差そのものを検定した報告ではないことだ。女性9名という規模で差が出なかったことは、「女性には影響がない」の証明ではなく、単にこの設計では検出できなかったという意味しかない。「酒は筋肉に悪い」の一言で語られがちなこの領域は、まだその程度の解像度にある。
力そのものは落ちるのか
回復期の飲酒を扱った12の研究をまとめた2019年の系統的レビューがある。用量は体重1kgあたり0.6〜1.5g(70kgの男性で、1ドリンク=10g換算の4.2〜10.5ドリンク相当)と幅がある。
このレビューの考察は「レジスタンス運動後の飲酒は、収集した生物学的・身体的指標の大半には影響しないようだ」という一文で結ばれる。ただしその直後に「しかし、コルチゾールは上昇し、テストステロンと筋タンパク合成速度は低下した」と続く。この二文の落差が、この領域の現在地をよく表している。
筋力については、ほとんどの研究で飲酒群と非飲酒群に差が出ていない。例外がバーンズらの2つの研究(1g/kg)で、うち一方ではピークトルクの低下が等尺性41%・短縮性43%・伸張性45%と報告されている。ただしこの数字は運動前と比べた低下率で、同じ研究の非飲酒群も29%・32%・26%落ちている。アルコールに帰せられるのはその差——12・11・19ポイント——であって、「酒を飲むと筋力が4割落ちる」ではない。
ホルモンはもっと錯綜している。個々の結果を並べると、総テストステロンは4研究のうち3研究で有意差なし、1研究ではむしろ飲酒側が高かった。有意差なしのうち1研究では、総テストステロンに差はないものの高用量群の遊離テストステロンが12・24時間後に低かった、という形である。コルチゾールも、差が出た研究と出なかった研究がある。被験者数は各研究8〜19名と少ない。
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