なぜビールとウイスキーは、同じ原料からまったく別の酒になるのか
グラスのビールと琥珀色のウイスキー。見た目も飲み口もまるで別物なのに、じつは大麦・水・酵母というほぼ同じ原料から生まれる兄弟だ。蒸留する前のウイスキーは「ホップを入れないビール」——両者を分かつホップ・蒸留・熟成という三つの分岐点を読み解く。
グラスに注いだビールと、琥珀色に輝くウイスキー。泡立つ黄金色の液体と、力強く濃厚な酒は、見た目も飲み口もまるで別世界だ。ところがこの二つ、出発点はほとんど同じ原料からできている。大麦(麦芽)、水、酵母——ビールを造るための材料をそろえれば、ウイスキーの土台はもう半分できあがっている。なぜ同じ材料から、これほど違う二つの酒が生まれるのか。
ウイスキーは「蒸留する前はビール」
モルトウイスキーの製造は、驚くほどビール造りと重なっている。麦芽を砕いて温水と混ぜ、でんぷんを糖に変えて甘い麦汁(ワート)を取り出す。ここに酵母を加えて発酵させると、アルコール度数7〜9%ほどの液体ができる。蒸留所ではこれを「ウォッシュ」(もろみ)と呼ぶが、その正体はホップを入れていないビールそのものだ。実際、蒸留の現場ではウォッシュを「ビール」と呼ぶこともある。つまりウイスキーは、蒸留する前の段階まではビールと双子のような存在なのである。
分かれ道は、ここから先にある。
三つの分岐点——ホップ・蒸留・熟成
第一の違いはホップ。ビールはこの毬花(まりばな)を加えて煮沸し、爽やかな苦味と華やかな香りをまとう。一方ウイスキーのウォッシュにはホップを入れない。理由はシンプルで、このあと蒸留してしまうため、ホップの繊細な香りは飛んでしまい意味をなさないからだ。ウイスキーは麦芽そのものが持つ穀物の甘みと香りを、あえて素のまま次の工程へ送る。
第二の違いが、その蒸留だ。ビールは発酵させた液体をそのまま楽しむ「醸造酒」だが、ウイスキーはウォッシュを蒸留器にかけ、アルコールと香り成分だけを凝縮して取り出す。この一手間で度数は一気に60〜70%へと跳ね上がり、ビールの面影は消えていく。
第三が熟成。蒸留したての無色透明な原酒を、オーク樽で何年も寝かせる。ここで琥珀色と、バニラやスパイスの複雑な風味が加わる。ビールが数週間で飲み頃を迎えるのに対し、ウイスキーは年単位の時間を樽の中で過ごす。この時間の差が、両者の性格を決定的に隔てている。
二つの世界が交わる場所
とはいえ、両者の血縁は今も随所に顔を出す。ビール造りで使う「ロースト麦芽」——深く焙煎して色と香ばしさを出す、黒ビールやスタウトでおなじみの麦芽——を、あえてウイスキーに使う試みがそれだ。
グレンモーレンジィの「シグネット」は、スタウトを思わせるほど深く焙煎した「チョコレートモルト」から蒸留した原酒をブレンドし、モカやビターチョコを思わせる香りをまとう。単式蒸留のシングルモルトに、ビール由来の発想を持ち込んだ一本といえる。

アイラのアードベッグが放った「アードコア」も、ビール用の「ブラックモルト」(480°F近い高温で焙煎した麦芽)を仕込みに加え、焦がしたような強烈なスモーキーさを引き出した実験作だ。
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