なぜウイスキーにはスモーキーなものとそうでないものがあるのか——ピートを「焚く」か「焚かない」かの分かれ道
ラフロイグやアードベッグのあの焚き火や正露丸のような香り。同じ大麦から造るのに、なぜスモーキーなウイスキーとそうでないものにくっきり分かれるのか。鍵は麦芽を乾かす燃料「ピート」にある。香りを生む仕組みから「ppm」という物差しの落とし穴、多くのウイスキーが煙たくない理由までを読み解く。
焚き火や正露丸を思わせる、あの独特のスモーキーな香り。ラフロイグやアードベッグを初めて口にした人が思わず驚くこの個性は、ウイスキーを語るうえで避けて通れない魅力だ。だが不思議なのは、同じシングルモルトでもグレンフィディックやマッカランからは、ほとんど煙を感じないこと。原料はどれも大麦・水・酵母とほぼ同じなのに、なぜスモーキーなものとそうでないものにくっきり分かれるのだろうか。
香りの正体は「麦を乾かす燃料」にある
鍵を握るのは、ウイスキー造りのごく初期の工程「モルティング(製麦)」だ。ウイスキーはまず大麦を水に浸して発芽させ、そのタイミングを見計らって熱風で乾かし、発芽を止める。このとき麦芽をどう乾かすかが、スモーキーかどうかの分かれ道になる。
スモーキーなウイスキーを造る蒸溜所は、乾燥のための炉(キルン)でピート(泥炭)を焚く。ピートとは、寒冷で湿った土地に堆積した植物が、長い年月をかけても完全には分解されず、石炭になりきる前の段階でとどまったものだ。これを燃やすと、フェノール類と総称される一群の香気成分を含んだ煙が立ちのぼる。まだ湿った麦芽の表面にこの煙成分が吸着し、あの香りの素が刻み込まれる。逆に、ピートを使わず無煙炭やガス・熱風だけで乾かせば、煙はつかない。つまりスモーキーかどうかは産地の宿命ではなく、造り手が選ぶ「乾かし方」の違いなのだ。

煙の香りを生む三つの成分
ピートの煙に含まれるフェノール類は一種類ではなく、香りの表情もそれぞれ異なる。ガイアコールは焚き火や燻製を思わせる香ばしいスモーク香を、クレゾール類は正露丸のような薬品っぽい香りを、シリンゴールは甘くスパイシーなニュアンスをもたらすとされる。アイラのウイスキーが「煙たい」だけでなく「薬品っぽい」と評されることが多いのは、こうした成分のバランスによるところが大きい。
重要なのは、煙成分が麦芽に吸着するのは乾燥のごく初期、麦芽がまだ湿っている段階に限られるという点だ。水分が抜けきってしまうと、煙は表面を素通りして香りがつかない。だからこそ蒸溜所は、麦芽が湿っているうちにピートを焚き始める。
「ppm」という物差しと、その落とし穴
ピートの強さは、麦芽に含まれるフェノール量を「ppm(百万分率)」で表すのが一般的だ。目安として、ノンピートの麦芽は2ppm未満、ライトピートで数ppm〜15ppm程度、ヘビーピートになると30ppmを超える。アイラのラフロイグは40〜50ppm前後、アードベッグは50〜55ppm前後とアイラでも最高水準で、ブルックラディが造る「オクトモア」に至っては100ppmを大きく超える仕込みもあり、版によっては300ppm以上に達したこともある、世界一ピーティなウイスキーとして知られる。
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