なぜスコッチには「カラメル色素(E150a)」が加えられるのか
「琥珀色は樽熟成の証」——そう信じたくなるが、実は多くのスコッチには色調を整えるためのカラメル色素E150aが添加されている。なぜ添加が許され、なぜ表示されないのか。規制・目的・味への影響、そして「ナチュラルカラー」を貫く蒸留所の思想から読み解く。
グラスに注いだウイスキーの、深い琥珀色。私たちはそこに「長い樽熟成の証」を読み取ろうとする。だが、その色の一部が樽ではなく、あとから加えられた色素に由来するとしたら——。スコッチウイスキーの多くには、**E150a(プレーンカラメル、スピリッツカラメル)**と呼ばれる色素が添加されている。ブレンデッドだけでなく、シングルモルトにも珍しくない。
なぜ添加が許されるのか。なぜラベルに書かれないのか。そして本当に味は変わらないのか。規制の条文と、実際に検証した人たちの報告から順に見ていく。
唯一許された「添加物」
スコッチウイスキーの製造は、2009年のスコッチ・ウイスキー規則(SWR 2009)によって厳しく縛られている。同規則の第3条は、スコッチウイスキーに加えてよいものを「水」「プレーンカラメル色素」「その両方」の三択に限定している(もちろん、何も加えないのも正解のひとつだ)。香料も、甘味料も、他の着色料も一切禁止。つまりE150aは、水を除けば、この禁欲的なカテゴリーで例外的に許された唯一の添加物という特別な位置にある。裏を返せば、使うことが義務づけられているわけでもない。
EUの蒸留酒規則(2019/787)も同趣旨で、ウイスキーは味を丸めるためであっても加糖・着香してはならず、色調を調整するためのプレーンカラメル(E150a)以外の添加物を含んではならない、と定めている。アイリッシュをはじめEU域内のウイスキーはこの枠組みにあり、EU離脱後の英国でも、スコッチについては上記のSWR 2009が同じ趣旨の規律を保っている。
E150aは、糖類を管理下で加熱してつくる「クラスI(プレーンカラメル)」の色素で、アンモニウム化合物や亜硫酸塩を使わないタイプを指す。コーラなどに使われる別クラスのカラメル(E150dなど)とは製法が異なる点に注意したい。
なぜ色を足すのか
最大の理由は色調の一貫性だ。ウイスキーの色は、樽の種類・使用回数・熟成庫の環境によって一樽ごとにばらつく。とりわけ膨大な原酒をブレンドする銘柄では、ボトルごと・出荷ロットごとの色の差を消し、消費者がいつ買っても同じ見た目になるようE150aで微調整する。
色のばらつきは近年むしろ広がりやすい。同じ「12年」でも、一度目に使うファーストフィル樽と、二度目・三度目のリフィル樽では色の出方がまるで違うからだ(→ファーストフィルとリフィルの違い)。年数表記を守りながら樽構成を毎年やりくりすれば、色は自然に揺れる。それを最後に揃える工程、と考えると分かりやすい。
もう一つは市場心理だ。濃い色は「長熟でリッチ」という印象を与えやすく、淡い色は敬遠されがち——という送り手側の読みがある。もっとも、色の濃さと熟成年数や味の濃さは必ずしも一致しない(→なぜウイスキーはあの琥珀色をしているのか)。この連想自体が、じつは一種の思い込みでもある。
味は変わるのか——分かれる評価
「E150aは風味に影響しない」というのが業界の公式見解だが、実際の評価は一枚岩ではない。
影響を否定する側の根拠はシンプルだ。使用量が微量であること、そして実際にブラインドで比べても判別できなかったという検証報告が複数あること。2005年に愛好家グループが複数のシングルモルトとブレンデッドで濃度を変えて試した検証でも、E150aの影響は総じて限定的だったと報告されており、むしろブレンデッドでは味がまとまる方向に働いたとされる。
一方で、カラメル色素は単体では強い苦味を持つ物質でもある。添加量が多い場合にわずかな苦味や質感の変化を感じ取る、とする愛好家やテイスターの声は根強い。ブルックラディは自社サイトで、E150にはチョコレートやコーヒーに似た香味成分が含まれると指摘したうえで、「着色のためには合法なのに、着香のためには違法」という規制の矛盾を突いている。
断定はできない。だが「まったく無味無臭で無関係」と言い切るのも、「はっきり味を損なう」と決めつけるのも、どちらも行き過ぎというのが穏当なところだろう。
表示されないのはなぜか
多くの市場ではE150aの表示義務がなく、ラベルからは添加の有無が分からない。スピリッツには原材料表示が原則として求められないためだ。
ただし例外もある。ドイツやデンマークでは着色料の表示が法律で求められ、ドイツでは「mit Farbstoff(着色料入り)」と記載される。同じ銘柄でも仕向け地によって表示が違うわけで、輸入元の違うボトルを見比べると気づくことがある。
見分けるための手がかり
日本の店頭では、次のような手がかりがある程度あてになる。
- 「ナチュラルカラー」「無着色」を明記しているボトル。無着色は手間もリスクも引き受ける選択なので、やっている造り手はたいてい自分から書く。
- 独立系ボトラーズのシングルカスク。単一の樽をそのまま瓶詰めするため、色を揃える動機が乏しい。
- ノンチルフィルタード(非冷却濾過)を掲げるボトル。無着色とセットで打ち出されることが多い(→なぜウイスキーは冷えると白く濁るのか)。
逆に、カスクストレングス=無着色とは限らない点は覚えておきたい。度数を落とさないことと、色を足さないことは別の話だ。
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