湯上がりの一杯は最高、でも順番を逆にしてはいけない——飲酒後の風呂・サウナで体に起きていること
風呂上がりのハイボールは日本の定番。でも「飲んでから入る」に順番を変えた途端、体には別のことが起きる。浴槽での死亡統計、血圧の動き方、「汗で酒は抜ける」の真偽を公的データで確かめ、安全で美味しい順番を示す。
風呂上がりに、よく冷えたハイボールを一杯。日本の家で最も愛されている「ご褒美」のかたちだろう。
ところが、この順番をひっくり返した瞬間——つまり「一杯やってから風呂に入る」——同じ組み合わせが、急に危ないものに変わる。しかも危ないのは、酔って足を滑らせるから、という単純な話ではない。
この記事では、飲んでから湯に入ると体の中で何が起きるのかを、公的な統計とアルコール代謝の数字から整理する。そのうえで、「サウナで汗をかけば酒が抜ける」という広く信じられている話が成り立つのかを確かめ、最後に、湯上がりの一杯をいちばん美味しく安全に飲む順番をまとめる。
国は「飲酒後の入浴は避けましょう」と名指ししている
まず、入浴そのものの事故がどれくらい起きているかを見ておきたい。
消費者庁が令和2年(2020年)11月に出した注意喚起によると、厚生労働省の人口動態調査をもとにした集計で、令和元年(2019年)に家や居住施設の浴槽で溺死・溺水により亡くなった高齢者(65歳以上)は4,900人。平成20年(2008年)の3,384人と比べて、約10年で約1.5倍に増えている。高齢者の「不慮の溺死及び溺水」による死亡者数は、平成23年(2011年)以降ずっと、高齢者の交通事故による死亡者数を上回っている。
これは溺死・溺水に限った数字だ。同じ資料は、入浴中の急死には心疾患や脳血管障害などの病死も含まれるため実数はさらに多いとし、平成24〜25年度の厚生労働科学研究による推計として、病死等も含めた全国の入浴中の急死者数を年間約19,000人と紹介している(3都県の調査を人口比で全国に引き伸ばした、10年以上前の推計である)。
東京都監察医務院の集計でも、令和4年(2022年)に東京23区で入浴中の死亡として扱われたのは1,704件。監察医務院が扱った異状死16,276件の1割以上にあたる。1月の299件が最多で、7月の57件が最少だった。
ここで正直に断っておくと、これらの統計の大半は高齢者の話である。監察医務院のデータでも、65歳以上が男性の87.6%、女性の94.1%を占める。若い世代で頻発しているわけではない。ただし裏返せば1割前後は65歳未満で、23区だけで年間150〜200件の規模になる。
それでも読む価値があるのは、消費者庁が挙げる安全な入浴の5つのポイントに、こう明記されているからだ。「食後すぐの入浴や、飲酒後、医薬品服用後の入浴は避けましょう」。湯温や見守りと並ぶレベルで、飲酒後の入浴は国が名指しで避けるよう呼びかけている。そして、その理由になっている体の反応そのものは、年齢を問わず誰にでも起きる。
湯に入ると、血圧は下がる方向へ動く
鍵は血圧の動き方にある。
東京都健康長寿医療センターの解説によれば、入浴中の血圧は一本調子には動かない。まず脱衣所で寒さにさらされると、体温を守るために末梢の血管が縮んで血圧が上がる。次に湯につかると、水圧(静水圧)で心臓へ戻る血液が増えていったん心拍出量が上がり、続いて温熱で血管が拡張して血圧が下がる。そして湯から出るとき、血管が広がったままのところに、体にかかっていた静水圧が一気に抜ける。この瞬間、起立性低血圧——立ちくらみが起きやすい。
ここにアルコールが重なる。厚生労働省のe-ヘルスネットは、少量のアルコールが血圧を一時的に低下させることを明記している(飲酒量や体質で程度は一様ではなく、長期間の飲酒はむしろ血圧を上げる方向に働く)。少なくとも飲んだ直後については、血圧が下がりやすくなっている体を、さらに血圧が下がる環境に置くことになる。
危険はもうひとつある。酔いそのものだ。眠気や判断力の低下は、湯船では直接、溺水の原因になる。同センターも、入浴関連死について「従来考えられていた心疾患や脳卒中は実は数が少なく、溺死が多い」と述べている。死亡診断書では病死として処理されるケースでも、実際に起きていたのは溺水だった——そう見られているということだ。浴槽が怖いのは、意識が途切れたとき、そこに水面があることに尽きる。
サウナも構図は同じである。高温で血管が広がっているところへ、アルコールの利尿作用と大量の発汗が重なり、血圧を支える余力が削られていく。
「汗をかけば酒が抜ける」を、数字で確かめる
ここで、サウナや長風呂にまつわる根強い言い伝えを検証しておきたい。汗をかけばアルコールが早く抜ける、というあれである。
e-ヘルスネットは、体内に入ったアルコールの排泄経路を数字で示している。呼気からの排泄が0.7%、汗からが0.1%、尿からが0.3〜4%。そして「代謝のほとんどは肝臓で行われます」。
つまり、汗が受け持っているのは1000分の1程度にすぎない。どれだけ汗をかいても、分解の仕事はほぼ全量が肝臓に残ったままだ。サウナで「抜けた」と感じることはあるが、その主因は汗ではない。サウナに入っていた時間ぶんは実際に肝臓が分解しているし、水分が減って喉が渇けば体感も変わる。汗そのものの寄与は、数字の上ではほぼ無視できる。むしろ脱水が進むぶん、条件は悪くなっていると考えたほうがいい。
待ち時間は計算できるが、「最短の目安」でしかない
では、飲んだあとどれくらい待てばいいのか。目安は自分で計算できる。
e-ヘルスネットによれば、1時間で分解できるアルコール量は**「体重×0.1g程度」**。体重60kgなら1時間あたり約6gだ。
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