なぜ薬の説明書には「服用前後は飲酒しないでください」と書かれているのか——理由は三つあり、うち一つは「酒に強くなった人」に向けて書かれている
風邪薬の箱に必ずある「服用前後は飲酒しないでください」。あの一行が禁じているのは実は三つの別々の現象で、うちひとつは酒に弱い人ではなく、飲み慣れて強くなった人ほど分が悪い。添付文書と研究をたどって中身を確かめた。
薬局でもらう袋にも、ドラッグストアで買った風邪薬の箱にも、たいてい同じ一行が刷られている。
「服用前後は飲酒しないでください」
けれど、なぜいけないのかは書かれていない。飲めばどうなるのか。何時間空ければいいのか。その晩の一杯だけの話なのか、それとも普段の飲み方の話なのか——肝心なところが省かれたまま、注意書きだけが置かれている。
先に見取り図を示しておく。あの一行は、互いにまったく別の三つの現象をまとめて禁じている。そして三つのうちひとつは、直感に反して、酒に弱い人より飲み慣れて強くなった人のほうが分が悪い。ウイスキーを日常の楽しみにしている人ほど、中身を知っておく価値がある。
なお以下は一般的な仕組みの話であって、個別の薬をどうするかの判断ではない。手元の薬について迷ったら、袋を持って薬剤師に聞くのがいちばん早い。その理由も最後に書く。
一行の中に、三つの別々の話が入っている
久里浜アルコール症センターの中山寿一氏による解説(2009年の講演要旨で、査読論文ではない)は、アルコールと薬の相互作用を大きく二つに分けている。
ひとつは薬物動態学的相互作用。薬の吸収や代謝が変わり、血液中の薬の濃度そのものが動くタイプ。
もうひとつは薬力学的相互作用。薬の濃度は変わらないのに、効く場所での作用が変わるタイプ。
ここに、実務上もうひとつ加えておきたい型がある。薬のほうがアルコールの代謝を邪魔するタイプだ。「この抗菌薬を飲んでいる間に酒を飲むと悪酔いする」という、酒飲みのあいだで有名なあの話がこれにあたる。同解説も、フェノチアジン系の抗精神病薬にはアルコール脱水素酵素(ADH)を阻害する作用があるためアルコールの血中濃度が上がる、と別立てで触れている。
整理すると、①肝臓で薬の濃度が動く、②効く場所で作用が重なる、③薬が酒の分解のほうを止める——の三つだ。原因が違えば、危ない薬も避け方も違ってくる。順に見ていく。
型1:その晩に飲むと、薬の分解に酒が割り込む
まず肝臓のほうから。
アルコールは主にアルコール脱水素酵素(ADH)で分解される。一方、薬の多くは**シトクロームP450(CYP)**という酵素群で処理されている。中山氏の解説によれば、アルコールの血中濃度が低いうちは、この分業がそのまま成り立っている。
ところがアルコールは、血中濃度が高くなるとこのCYPを使う経路——ミクロソームエタノール酸化系(MEOS)——も動かしはじめる。もともと薬の窓口だったところに、酒が割り込んでくるのだ。
割り込まれれば、薬の分解は後回しになる。結果として薬が体内に長くとどまり、血中濃度が上がり、効きすぎる。同解説も、飲酒中または飲酒直後については「アルコールがCYP450の働きを阻害するため、薬物の代謝が遅れ血中濃度が上昇することで薬効が増強する」と整理している。
「薬を飲んだ日に酒を飲むと効きすぎることがある」——これがその中身である。
毎晩の酒は、逆に酵素を増やす
ところが、長く飲み続けている人では話が反転する。
習慣的に飲んでいると、CYPのうちCYP2E1という酵素が増えてくる。厚生労働省のe-ヘルスネットも、飲み続けるうちに酒に強くなる理由として、脳の側の慣れと並べて「CYP2E1が増えてアルコール代謝が速くなるため」を挙げている。飲んで鍛えれば強くなると言われるときの、体の側の実体のひとつがこれだ。
窓口が増えれば、処理は速くなる。だから常習的に飲む人では、薬が予定より速く分解されて効きが弱まることが起こりうる。中山氏の解説も、長期飲酒後については「酵素の活性が増加し薬物の代謝が亢進するため、薬効の減弱や毒性の増強が起こりうる」としている。
同じ「酒と薬」でも、その晩に一緒に飲んだのか、何年も飲み続けてきたのかで、向きが逆になる。ここがこの話のいちばんややこしいところだ。
ひとつ救いがあるとすれば、増えた酵素は元に戻るということだろう。e-ヘルスネットによれば、CYP2E1は数日の休肝日で酵素量が減り、1週間飲まないと元に戻るという。休肝日がすすめられる理由は、肝細胞を休ませることだけではない。
「酒に強くなった人ほど分が悪い」一錠——アセトアミノフェン
そして、いま出てきた「毒性の増強」がもっともはっきり文書化されているのがアセトアミノフェンだ。解熱鎮痛薬として広く使われ、多くの総合感冒薬にも配合されている、あの成分である。
医療用の添付文書は、アルコールを多量に常飲する人について「肝障害があらわれやすくなる」と明記し、相互作用の欄にはこう書いている——「アルコール多量常飲者がアセトアミノフェンを服用したところ肝不全を起こしたとの報告がある」。
機序として挙げられているのが、さきほどの酵素だ。「アルコール常飲によるCYP2E1の誘導により、アセトアミノフェンから肝毒性を持つN-アセチル-p-ベンゾキノンイミンへの代謝が促進される」。
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