ウイスキーにノンアルコールはあるのか——「飲まない日」の一杯の選び方と、脱アルコールという技術
休肝日や運転の予定がある日、ウイスキーの代わりになる一杯はあるのか。「ノンアルコール」表示の読み方、脱アルコール型と再構成型という二つの造り方、そして「薄く長く飲む」という現実解までを整理する。
「今日は飲まない」と決めた夜にも、あの琥珀色の一杯を思い出す——そんな人は少なくないはずだ。健康診断の前、車を出す予定のある週末、あるいは単に休肝日。飲まない理由が増えるほど、「ウイスキーにノンアルコールはないのか」という問いが浮かぶ。
先に整理しておくと、日本の酒税法上、ウイスキーは「酒類」の一品目であり、アルコール分1度(1%)未満の飲料はそもそも酒類に当たらない。加えて業界の表示自主基準が、既存の酒類と誤認させる名称や意匠を避けるよう定めている。そうした事情から、国内で「ウイスキー」を名乗るノンアルコール飲料は売られていない(海外には non-alcoholic whisky と表記される商品もある)。
それでも「ウイスキーの一杯に近づける」飲み物は、まったく異なる二つの方向から生まれている。この記事では、その二つの造り方の違い、ラベルの「ノンアルコール」が実際に何を意味するのか、そして飲まない日の現実的な選択肢までを整理する。
国内の「ノンアルコール」は、ほぼ0.00%
まず押さえておきたいのが表示のルールだ。酒税法が決めているのは「酒類に当たるかどうか」だけで、「ノンアルコール」と名乗れるかどうかは別の系統で決まっている。
酒類業界の自主基準は、ノンアルコール飲料をアルコール分0.00%で、味わいが酒類に類似し、20歳以上の飲用を想定・推奨するものと定義している。国内の大手メーカーはこれに沿って運用しているため、日本の店頭で「ノンアルコール」と書かれていれば、実際にはほぼ0.00%と考えてよい。
注意すべきは、その外側にある二つだ。ひとつは0.5%前後の微アルコール飲料。酒類には当たらないが、そもそも「ノンアルコール」を名乗らない別カテゴリで、アルコールは含まれている。もうひとつが海外製の輸入品で、こちらは国内の自主基準の外にあり、"alcohol-free" と書かれていても0.00%とは限らない。
運転の予定がある日は、迷わず「アルコール0.00%」と明記された商品を選びたい。道路交通法(施行令)が定める酒気帯び運転の基準は、呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコールが検出された場合である。0.00%の飲料を通常の飲用量で飲んでこの数値に届くとは考えにくい。とはいえ0.00%という表記も検出限界以下を丸めたものなので、微アルコールや輸入品をあえて選ぶ理由は、運転前にはない。
造り方①:本物からアルコールを「抜く」
一つ目の方向が、脱アルコールと呼ばれる考え方だ。いったん造った酒からアルコールを取り除く方法で、代表的なのが減圧(真空)蒸留と逆浸透膜である。
アルコールの沸点は水より低い。そこに圧力を下げる操作を加えて沸点をさらに引き下げれば、より低い温度でアルコールを飛ばせる。加熱温度が低いほど、香りの損失を抑えられるという理屈だ。
逆浸透膜のほうは、圧力をかけて液体を膜に通し、香りや味に関わる大きな分子を膜側に残す。抜けてきた水とアルコールの側からアルコールだけを取り除き、水を戻すことで度数を下げていく。膜そのものがアルコールを止めているわけではない、という点は誤解されやすい。
日本で手に取りやすい例が、サントリーの「のんある晩酌 ハイボール ノンアルコール」。同社は、厳選したウイスキー原酒から極力熱をかけずにアルコール分を取り除く「ハイボールありのまま製法」を採用し、アルコール分は0.00%だと説明している。出発点が本物のウイスキー原酒である、という点がこの方式の強みだ。
造り方②:ゼロから香りを「組み立てる」
もう一つが、海外のノンアルコール・スピリッツに多い再構成型である。酒を造ってからアルコールを抜くのではなく、水をベースに香味成分を組み合わせて、それらしい風味を設計していく。
たとえばノンアルコール・スピリッツのブランド Lyre's(ライアーズ)のバーボン代替製品は、米国向け公式サイトで原材料に水、グルコースシロップ、カラメル色素(E150D)、天然香料などを表示しており、度数は0.3%未満としている。ウイスキーの製法をなぞった飲み物ではなく、ウイスキーの「味の記憶」をゼロから設計した飲み物、と考えたほうが実像に近い。
なお、この「0.3%未満」という数字こそ、前の章で触れた輸入品の実例にあたる。alcohol-free とうたわれていても0.00%とは限らない、という一例だ。運転前に選ぶなら、こうした表示は必ず確認したい。
味の設計としても、ストレートで香りの立ち上がりを味わうより、コーラやジンジャーエールで割ってハイボール的な一杯に組み立てるほうが、この手の商品は構成が生きやすい。
なぜウイスキーのノンアル化は難しいのか
そもそもアルコールは、単に酔わせるための成分ではない。香気成分を溶かし込む媒体であり、加水や温度によってどれだけ香りが立つかを左右する。口当たりの厚みや、喉を灼くような刺激をつくっているのもアルコールだ。
そして難しさは、量の問題として現れる。ビールの5%前後、ワインの12%前後に対し、ウイスキーは40%前後。取り除くべき割合が比べものにならないほど大きく、しかもアルコールを抜く工程では香気成分も一緒に失われやすい。度数そのものが味の骨格になっている酒ほど、抜いたあとに残るものが少ない——ノンアル化の難所はここにある。
香りが味わいの大半を決めているという話は、こちらの記事で詳しく書いた。
「薄く飲む」という、もう一つの答え
ノンアル製品を探すのと並んで現実的なのが、本物を薄く、長く飲むという選択だ。ただし断っておくと、これは飲む日の話である。薄めても摂取する純アルコール量は変わらないので、運転する日に取れる選択肢ではない。
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