ロックグラスは、なぜ「オールド・ファッションド・グラス」とも呼ばれるのか——カクテルの名を借りたグラスと、「転ぶ」から来たタンブラー
背の低い厚底のウイスキーグラスには「オールド」「ロック」「タンブラー」と名前がいくつもある。19世紀の「小さなバーグラス」がカクテルの名で呼ばれるようになった経緯、1940年代に流行したスコッチ・オン・ザ・ロックス、「転ぶ」に由来するタンブラーの二つの説をたどる。
背が低く、底がずしりと厚い、あのグラス。氷を入れてウイスキーを注ぐと、それだけで一杯の格好がつく。日本ではたいてい「ロックグラス」と呼ばれているが、グラスの売り場やバーの道具の話になると、別の名前が顔を出す。「オールド・ファッションド・グラス」、略して「オールド」。英語圏では「ローボール」とも呼ぶ。
一つの器に、なぜこれほど名前があるのか。調べてみると、オールド・ファッションドとロックの二つは、グラスの形ではなく中に注がれた酒の名前から来ていた。この記事では、ウイスキーのそばにある三つの呼び名——オールド・ファッションド、ロック、そして毛色の違うタンブラー——の出どころをたどる。
19世紀には、ただの「小さなバーグラス」だった
まず押さえておきたいのは、この形のグラス自体は名前より古いということだ。
『オックスフォード・スピリッツ&カクテル事典』(編集主幹デイヴィッド・ワンドリッチ)によれば、背の低い厚底のこのグラスは、19世紀には「スモール・バー・グラス(小さなバーグラス)」と呼ばれていた。19世紀前半のカクテルはこの脚のない厚底のグラスで出されていた、と事典は書いている。特別な名前のない、カウンターに当たり前に置かれた器だったわけだ。
底が厚いのには実用上の理由があるとも説明される。グラスの中で角砂糖をビターズでつぶしてから酒を注ぐ、という作り方に耐えるためだ。この「つぶして混ぜる」作り方こそ、のちにグラスの名前になるカクテルの手順だった。
カクテルの名前が、グラスの名前になった
1806年、ニューヨーク州の新聞が「カクテル」を、蒸留酒に砂糖・水・ビターズを合わせた飲み物だと説明している。これがカクテルという言葉の、知られている限り最も古い定義とされる。
その後の19世紀、カクテルはリキュールや果汁を足した新しい作り方へどんどん広がっていった。そこで、昔ながらの「酒・砂糖・水・ビターズ」だけの一杯を、「オールド・ファッションド(昔風の)」カクテルと呼んで区別するようになった、と考えられている。シカゴの新聞に「オールド・ファッションド・カクテル」の語が出てくるのは1880年。ケンタッキー州ルイビルの社交クラブ発祥という有名な話があるが、そのクラブの創設は1881年で、新聞の記述のほうが先にある。カクテル史家たちはこの発祥説を退けている(作り方はオールドファッションドの作り方で詳しく紹介している)。
この一杯をいつも出していたのが、あの小さなバーグラスだった。こうして器は、中身の名前で呼ばれるようになる。グラスが先にあり、カクテルの名前があとからグラスに移ったという順番だ。
「ロック」も、もとは一杯の酒の名前
日本で一般的な「ロックグラス」も、たどった道筋は同じだ。
氷の上にウイスキーを注ぐ「オン・ザ・ロックス」は、意外に新しい言葉だ。前出の事典は、1947年の新聞コラムがニューヨークの名店「21クラブ」で流行していた飲み物として「スコッチ・オン・ザ・ロックス」を紹介した例を挙げる。翌1948年にはカクテル書に「ジン・オン・ザ・ロックス」が載り、言い回しはほかの酒へも広がっていった。
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