蒸溜所見学に車で行ったら、試飲はどうなるのか——スコットランドの「ドライバーズ・ドラム」と、日本の案内にある「割愛」
蒸溜所は公共交通では行きにくい場所にあることが多い。では運転者の試飲はどうなるのか。スコットランドには飲まずに持ち帰る「ドライバーズ・ドラム」があり、日本の案内には「割愛させていただきます」とある。両国の飲酒運転基準を並べて、その差を読む。
蒸溜所を訪ねようとすると、たいてい車の話になる。きれいな水が湧き、涼しくて風通しがよく、人里から少し離れている——酒を造るのに向いた土地の条件は、そのまま「公共交通では行きにくい」という条件でもあることが多いからだ。
そして見学ツアーの目玉は、最後の試飲だ。運転してきた人は、その目玉を目の前にして手を出せない。
この素朴だが厄介な矛盾に、スコットランドと日本はそれぞれ違う答えを出している。
スコットランドの答えは「飲まずに、持って帰る」
スコットランドには、運転してきた人のための仕組みがある。試飲で注がれるはずだった分を、その場で飲む代わりに小瓶へ移して持ち帰ってもらう、というやり方だ。呼び名は driver's dram、driver's bottle、driver's pack などと蒸溜所によってまちまちで、日本語で紹介されることは少ないのだが、現地の案内文にはあっさり載っている。
たとえばパースシャーのディーンストン蒸溜所は、見学案内のよくある質問にこう書いている。
If you're driving, we offer 'driver's drams' so you can take away the whisky tasted in the experience to enjoy in your own time at home.
(運転される方には「ドライバーズ・ドラム」をご用意しています。体験でテイスティングしたウイスキーをお持ち帰りいただき、ご自宅でゆっくりお楽しみいただけます)
テイスティングした酒を持ち帰る、とはっきり書かれている。似た案内は各地にあり、スペイサイドのバリンダロッホ蒸溜所は、20ポンドの短いツアーから95ポンドのプライベートツアーまで、公式サイトに並ぶすべてのツアー説明に「(We provide driver's bottles if required)」(必要な方には運転者用のボトルをご用意します)という一行を添えている。中身までは書かれていないが、運転者向けの用意があること自体は最初から示されている。
減らされるのは「その場で飲む」という体験のほうであって、酒そのものではない。少なくともディーンストンの書き方は、そう読める。

「22」という、英国でスコットランドだけの数字
ここまで気を配る背景には、スコットランドだけが持つ厳しい基準がある。
2014年12月5日、スコットランドは飲酒運転の基準値を単独で引き下げた。根拠となった法令(The Road Traffic Act 1988 (Prescribed Limit) (Scotland) Regulations 2014)が定めたのは、呼気100mlあたり22マイクログラム、血液100mlあたり50mgという数字である。
イングランド・ウェールズ・北アイルランドは、いまも呼気100mlあたり35マイクログラム、血液100mlあたり80mgだ。同じ英国のなかで、境界を越えると基準が変わる。
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