なぜお酒(ウイスキー)を飲むと、心臓がドキドキする・脈が速くなるのか——自律神経の綱引きと「ホリデーハート症候群」
ウイスキーを飲んだあとの動悸は気のせいではない。オクトーバーフェストで3,000人の心電図を取った研究が示した脈の上がり方、交感神経と迷走神経の綱引き、そして飲んだ「あと」に起きること。一杯の重さを純アルコールで数える話。
グラスを空けて、しばらく経ってから気づく。胸のあたりが、いつもより忙しない。ソファに沈んで静かにしているはずなのに、脈が速い。横になると、枕越しに自分の鼓動が聞こえる——。
ウイスキーを飲んだあとのこの感じを、「気のせい」だと思っている人は多い。けれど心電図を当てて測ると、脈は実際に速くなっている。しかもそれは、酔いが醒めていく過程でむしろ厄介な顔を見せることがある。
この記事では、飲んだあとに動悸がする理由を、自律神経のしくみと実際の研究データからたどってみる。ウイスキーを長く楽しむために知っておきたい、「一杯の重さ」の話でもある。
飲めば脈は本当に速くなる——3,000人の心電図が示したこと
ドイツ・ミュンヘンのオクトーバーフェストで、会場にいた人たちに携帯型の心電計と呼気アルコール検知器を当てるという、少し変わった研究が行われた。MunichBREW(ミュンヘン・ビール関連心電図研究)と呼ばれるもので、対象は3,028人にのぼる。
参加者の呼気アルコール濃度は平均0.85 g/kg。晩酌一杯という水準ではなく、祭りの席でしっかり飲んだ人たちの集団だと考えてほしい。
結果ははっきりしていた。心電図に何らかの不整脈が記録された人は30.5%。最も多かったのは洞性頻脈、つまり「脈が速いだけ」の状態で、これが参加者の25.9%——およそ4人に1人にみられた。そして呼気アルコール濃度が高い人ほど、脈は速かった。
もっとも、この数字をそのまま家のソファに持ち込むことはできない。研究チーム自身、祭りの会場という賑やかな状況が結果に影響した可能性を限界として認めている。立って歩き、人と騒ぎ、体も温まっている。同一人物の飲む前と飲んだあとを追った研究でもない。
それでも、同じ会場にいた人どうしを比べて「アルコール濃度が高いほど脈が速い」という関係が出たことの意味は小さくない。飲んだあとのドキドキは主観ではなく、測れば数字に出る。
アクセルが踏まれ、ブレーキが緩む
では、なぜ速くなるのか。鍵になるのは自律神経のバランスだ。
心臓の拍動は、交感神経(アクセル)と副交感神経=迷走神経(ブレーキ)の綱引きで速さが決まっている。この調査の二次解析で、研究チームは飲酒時の心拍数上昇について、交感神経の活動が高まると同時に迷走神経の働きが弱まる、その両方が重なった結果ではないかと指摘している。アクセルが踏まれ、同時にブレーキが緩む。だから脈が上がる。
これに加えて、アルコールには血管を広げる作用がある。血管が広がれば血圧は一時的に下がりやすく、体はそれを補うために心拍を上げようとする。胸が騒がしくなるのは、この二つが並行して起きているためだ。
なお、動悸の犯人としてよく名指しされるアセトアルデヒド(アルコールが分解される途中でできる物質)については、交感神経を刺激するという説明が広く行われている。ただし人によって出方の差が大きく、メカニズムの細部まで断定できる段階ではない。
顔が赤くなる人ほど、心当たりがあるはずだ
厚生労働省の e-ヘルスネットは、「フラッシング反応」を、ビールコップ1杯程度の少量の飲酒で起きる顔面紅潮・吐き気・動悸・眠気・頭痛などと定義している。動悸は、赤くなることと並ぶ代表的な症状として、公的な定義に最初から名指しされているわけだ。
その主な原因は、2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の働きが弱く、アセトアルデヒドの分解が遅いこと。日本人にはこのタイプが少なくない。国の定義が顔面紅潮と動悸を同じ反応として並べている以上、「一杯で顔が真っ赤になる」人が「一杯で脈が速くなる」のは、偶然の重なりではなく、同じ体質の別の現れ方だと考えるほうが自然だろう。
(この体質そのものについては、なぜウイスキーを一杯飲んだだけで顔が真っ赤になる人がいるのかで詳しく書いた。)
厄介なのは、飲んでいる最中よりも「そのあと」
先の研究チームは続編として、202人に48時間の心電図モニターを装着してもらう調査も行っている。ここで注意したいのは、この202人が晩酌一杯の人たちではないことだ。組入れの条件は、呼気アルコール濃度が1.2 g/kg以上に達すると見込まれる飲酒を予定していること。つまり、はっきりした深酒を前提にした集団である。
その前提で見ると、飲酒中は交感神経が優位になり、心拍が上がり、心房性の頻拍が増えた。そして心房細動や心室頻拍といった、注目すべき不整脈のエピソードが確認されたのは202人中10人(約5%)。その多くは、飲酒後6〜19時間にあたる「回復期」に起きていた。
読者が夜中に感じる動悸の大半は、この10人に起きたような不整脈ではなく、単に脈が速いだけの状態だろう。それでも、不整脈が出やすいのは飲んでいる最中ではなく、飲み終えたあとの十数時間だという構図は覚えておいていい。眠りが浅くなることや、翌日の落ち着かなさとも地続きの話だ(寝酒と睡眠の質の話、ハングザイエティの正体)。
「ホリデーハート症候群」という古い名前
この現象には、1978年に付けられた呼び名がある。ホリデーハート症候群。心臓の病気の徴候はないが日常的に大量に飲んでいる人が、週末や休暇のまとめ飲みのあとに不整脈——多くは心房細動——を起こして運ばれてくる、という報告からきた名前だ。
長らく、飲酒と発作の時間的な前後関係までは捉えにくかったが、近い角度からの証拠が2021年に出た。心房細動の既往がある100人に、心電図モニターとアルコールセンサーを4週間つけてもらった研究で、直前4時間に1杯飲んでいた場合の心房細動発生のオッズ比は2.02、2杯以上では3.58だった。すでに心房細動を持つ人が対象である点は割り引く必要があるが、飲酒が発作の引き金になりうることが、日単位ではなくで捉えられた意味は大きい。
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