なぜジェムソンは「世界一売れるアイリッシュウイスキー」になったのか——スコットランド人が興し、壊滅した産業を生き延びた一杯
世界で最も売れているアイリッシュウイスキー、ジェムソン。創業者はスコットランド人で、20世紀に壊滅したアイルランドのウイスキー産業を生き延びた数少ない一本でもある。三回蒸留のなめらかさと、世界一へ駆け上がった物語から、その愛される理由を読み解く。
日本のバーでもアイリッシュパブでも、必ずと言っていいほど棚にある緑色のボトル。ジェムソンは、世界で最も売れているアイリッシュウイスキーだ。2024年6月までの1年間で、その販売量は約1,070万ケースにのぼる。なぜ数あるアイリッシュの中で、ジェムソンだけがこれほど広がったのか。その答えは、一杯のなめらかさと、存亡の淵に立たされたアイリッシュウイスキーを生き延び、世界一へと駆け上がった物語にある。
創業者は、アイルランド人ではなくスコットランド人だった
意外なことに、ジェムソンの名を冠したジョン・ジェムソンは、アイルランド人ではない。1740年、スコットランドのクラックマナンシャーに生まれたスコットランド人だ。30代でダブリンに渡り、1780年に創業した同市ボウ・ストリートの蒸溜所を礎に、ジェムソンの歴史は始まる。
当時のダブリンはロンドンに次ぐ大都市で、100を超える蒸溜所・醸造所がひしめいていた。ジェムソンはその中で頭角を現し、19世紀には年間100万ガロンを造る、世界有数の蒸溜所へと成長する。
「なめらかさ」の正体は、三回蒸留にある
ジェムソンの代名詞は、とにかくなめらかで飲みやすい口当たりだ。これは偶然ではなく、造りに理由がある。
ひとつは三回蒸留。スコッチの多くが二回なのに対し、アイリッシュの伝統は三回蒸留で、蒸留を重ねるほど雑味のもととなる重い成分が削ぎ落とされ、軽くクリーンな酒質になる。もうひとつは、発芽大麦だけでなく未発芽の大麦も使うこと。これはアイルランド特有の「シングルポットスチル」の流儀で、オイリーでスパイシーな厚みを生む。この原酒に軽やかなグレーンウイスキーをブレンドし、主にバーボン樽と一部シェリー樽で熟成させることで、あの穏やかで甘い一杯ができあがる。


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