なぜシングルモルトはブレンデッドより「格上」とされるのか
バーで「シングルモルトを一杯」と言うと、どこか通っぽく響く。だが歴史をたどると、市場を100年支配したのはむしろブレンデッドのほうだった。シングルモルトの「格上」イメージはいつ、どうやって生まれたのか。定義・歴史・マーケティングの三つの視点から解き明かす。
「今日はシングルモルトで」——バーでそう口にすると、ほんの少しだけ通に見える。逆にブレンデッドを頼むと、どこか入門者っぽい響きがつきまとう。だが冷静に考えると、これは不思議な話だ。世界で最も飲まれてきたスコッチは、長らくブレンデッドのほうだったのだから。シングルモルトの「格上」イメージは、いったいどこから来たのだろうか。
そもそも何が違うのか
まず言葉を整理しておきたい。スコッチの法律「Scotch Whisky Regulations 2009」では、シングルモルトとは「単一の蒸溜所で、大麦麦芽のみを原料に、単式蒸溜器(ポットスチル)で造られたウイスキー」と定義される。対してブレンデッドは、複数の蒸溜所のモルト原酒に、連続式蒸溜器で造られた軽やかなグレーンウイスキーを掛け合わせたものだ。
つまり両者の違いは、品質の上下ではなく「造りと組み立て方」にある。シングルモルトが一つの蒸溜所の個性を映す肖像画だとすれば、ブレンデッドは何十もの原酒を調香師が構成する、オーケストラのような世界だ。
市場を支配していたのはブレンデッドだった
意外に思われるかもしれないが、ウイスキーの歴史ではブレンデッドこそが主役だった。19世紀半ば、エディンバラのアンドリュー・アッシャーらがモルトにグレーンを合わせる手法を広め、荒々しかったモルト原酒は飲みやすく安定した酒へと生まれ変わった。均質で親しみやすいブレンデッドは輸出市場を席巻し、その後およそ100年、スコッチといえばほぼブレンデッドを指す時代が続く。シングルモルトは蒸溜所周辺で細々と飲まれる、いわば地酒的な存在にすぎなかった。
「格上」イメージが生まれた瞬間
転機は1963年。スペイサイドのグレンフィディックが、単一蒸溜所のモルトを積極的に瓶詰めし、スコットランド国外へ売り出す戦略に踏み切った。三角形の緑瓶(デザインはハンス・シュレーガー)は棚で際立ち、「これはただのスコッチではない」という物語をまとっていた。

なお「史上初のシングルモルト」と紹介されることもあるが、それ以前にも単一蒸溜所の瓶詰めは存在しており、この点は諸説ある。正確には、シングルモルトを世界ブランドとして本格的に売り込んだ最初の取り組み、と言うのが妥当だろう。ここで打ち出された「通が選ぶ本物」という立ち位置が、後の「格上」イメージの原型になった。以降、各蒸溜所がこぞって自社モルトを瓶詰めするようになり、希少性やヴィンテージを訴求できるシングルモルトは高価格帯の主役へと駆け上がっていく。
ブレンデッドは「格下」なのか
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