なぜ「ジャパニーズウイスキー」には長らく定義がなかったのか
世界中で引っ張りだこのジャパニーズウイスキー。ところが「ジャパニーズ」を名乗るための明確なルールが定められたのは、じつは2021年のこと。それまで外国産の原酒を詰めただけの一本すら「日本のウイスキー」として売られていた。ゆるい酒税法、2021年の新基準、そして愛好家が知っておきたい見分け方までを読み解く。
世界の品評会で頂点に立ち、免税店でも定価の何倍もの値がつくジャパニーズウイスキー。しかし意外なことに、「ジャパニーズウイスキー」と名乗るための明確なルールが定められたのは、つい最近のことだ。2021年まで、極端に言えば海外から買ってきた原酒を日本で瓶に詰めただけの一本でも、堂々と「日本のウイスキー」として棚に並べることができた。なぜそんな状態が長く続いたのか。そして、なぜいまルールが作られたのか。
そもそも酒税法の「ウイスキー」がゆるかった
出発点は、日本の酒税法におけるウイスキーの定義そのものにある。日本の法律では、モルトやグレーンの原酒がわずかしか入っていなくても、さらに外国から輸入した原酒を混ぜても、一定の条件を満たせば「ウイスキー」を名乗ることができた。つまり酒税法は「これはウイスキーという酒か」を決めるだけで、「それが日本産か」まではまったく問うていなかったのだ。
スコッチが「スコットランドで蒸留・熟成された」という産地の縛りを法律で厳格に定めているのとは対照的である。日本では長らく、産地や製法を保証する公的な物差しが存在しなかった。
人気の高まりが「抜け道」を生んだ
この曖昧さが問題として表面化したのは、皮肉にもジャパニーズウイスキーが世界的な評価を得てからだった。ブランド価値が上がるほど、「ジャパニーズ」という言葉自体に商品力が宿る。すると、外国産のバルク原酒を輸入して日本で瓶詰めしただけのものや、酒税法上はスピリッツや焼酎に近いものまでもが、「日本のウイスキー」として国内外で売られる例が目立つようになった。
作り手が丁寧に国内で蒸留・熟成した一本と、中身の由来がはっきりしない一本が、同じ「ジャパニーズウイスキー」の看板で並ぶ——これでは消費者は正しく選べないし、真面目な蒸留所の信用まで傷つきかねない。
2021年、業界がついに自主基準を定めた
そこで日本洋酒酒造組合は、2021年2月12日に「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」を制定した。主な要件はこうだ。原材料は麦芽・穀類・日本国内で採水した水に限り、麦芽は必ず使うこと。糖化・発酵・蒸留は日本国内の蒸留所で行うこと。内容量700リットル以下の木製樽に詰め、日本国内で3年以上貯蔵すること。瓶詰めも日本国内で行い、その時点でアルコール分40度以上であること。色調微調整のためのカラメル使用のみ認められる。
産地・原料・熟成年数・度数まで踏み込んだ、スコッチにも引けを取らない厳しさだ。ただし注意したいのは、これはあくまで業界団体の自主基準であって、法律ではないという点。組合に加盟していない造り手には強制力が及ばないという限界も残っている。
「日本製なのにジャパニーズではない」一本たち
基準は2021年4月に施行され、既存商品には2024年3月末までの経過措置が設けられた。この線引きによって、じつは有名銘柄のなかにも「日本で造られているが、基準上はジャパニーズウイスキーを名乗らない」ものが出てくる。複数の国の原酒をブレンドした“ワールドウイスキー”は、その代表例だ。
一方で、国内の蒸留所で一貫して造られた王道の一本は、まさに基準が守ろうとしている「本来のジャパニーズウイスキー」の姿といえる。
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