なぜティーチャーズは、この安さで「煙たい」のか——ハイランドの一族と、アードモアという心臓
1,000円台のブレンデッドなのに、なぜティーチャーズだけが煙たいのか。ブレンドのために蒸溜所まで建てた一族の執念と、アードモアという「心臓」から、その味の理由を読み解きます。
スーパーの棚で1,000円台。それなのに、ハイボールにすると鼻をくすぐる煙の香りがある——ティーチャーズ(ハイランドクリーム)は、多くの人が「最初のスモーキー」を体験する一本です。同じ価格帯のブレンデッドスコッチはたいてい軽くマイルドなのに、なぜティーチャーズだけがこれほど煙たいのか。その答えは、この銘柄を生んだ一族の「執念」にあります。
「先生」ではなく、グラスゴーの食料品店から
ティーチャーズ(Teacher's)という名前から学校を連想する人もいますが、これは創業者ウィリアム・ティーチャーの姓に由来します。彼は1830年頃からウイスキーを商い、1832年には妻が営むグラスゴーの食料品店の一角で量り売りを始めたと記録されています。やがて1856年に酒を店内で飲ませる免許を取得し、独自の「ドラムショップ」を構えました。
主力ブレンド「ティーチャーズ・ハイランドクリーム」が商標として登録されたのは1884年。ウィリアムの息子たちが率いる〈ウィリアム・ティーチャー&サンズ〉の看板商品として、19世紀後半に広まっていきます。

煙の正体は「アードモア」——ブレンドのために建てた蒸溜所
安価なブレンデッドが軽くなりがちなのは、原酒(モルト)の質と量にコストがかかるからです。ティーチャーズはここで真逆の道を選びました。もともとハイランドクリームは煙をまとったブレンドでしたが、その個性を安定して支える原酒を自ら確保するため、1898年、一族はアードモア蒸溜所を東ハイランドのケネスモントに建設します。手がけたのはウィリアムの息子アダム・ティーチャー。大麦・ピート(泥炭)・水に恵まれ、鉄道が通る立地が選ばれました。
アードモアがつくるのは、ピートで燻したハイランドモルト。フェノール値はおよそ12〜14ppmと、アイラの猛者ほど強烈ではないものの、ブレンドの芯にはっきりと煙を通す量です。ティーチャーズはこのアードモアを「指紋(フィンガープリント)」と呼び、味の背骨に据えました。棚で隣に並ぶ他の安ブレンドと香りが違うのは、偶然ではなく設計なのです。
モルト比率という贅沢
ティーチャーズがもう一つ誇るのが、モルト原酒の比率の高さです。ブランドはハイランドクリームのモルト含有量を約45%と公表しており、これは標準的なブレンデッドスコッチとしてはかなり高い水準です。アードモアを中心に30種類以上のモルトを組み合わせることで、価格の割に飲みごたえのある、甘さと煙が同居した味に仕上がります。だから炭酸で割っても水っぽくなりにくく、ハイボールにしたときに香りが立つ——家庭のハイボールで映える理由がここにあります。
なお、ティーチャーズは1913年、コルク抜きを使わず手で開けられるT字型キャップの「セルフ・オープニング・ボトル」を導入したことでも知られます。中身だけでなく、飲み手の使い勝手にも早くから目を向けたブランドでした。
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