なぜウイスキーの銘柄には「鹿」や「鳥」など動物のマークが多いのか
バーの棚を見渡すと、鹿・鳥・犬——動物をあしらったラベルがやたら目につく。なぜウイスキーは動物のシンボルをこれほど好むのか。動物を意味する地名、氏族の紋章、土地の自然、そして「一目で見分けさせる」ブランドの知恵という四つの視点から読み解く。
バーやリカーショップの棚をぐるりと見渡すと、あることに気づく。鹿、鳥、犬——動物をあしらったラベルがやたらと多いのだ。グレンフィディックの雄鹿、フェイマスグラウスの猟鳥、ブラック&ホワイトの二匹のテリア。なぜウイスキー、とりわけスコッチは、これほど動物のシンボルを好むのか。理由は一つではなく、いくつもの事情が層になっている。
理由1:名前がそもそも動物を指している
まず、銘柄名そのものが動物を意味している場合がある。代表格がグレンフィディックだ。ゲール語の「グレン・フィディッヒ(Gleann Fhiodhaich)」は、広く「鹿の谷」を意味するとされる。スコットランドの谷(グレン)は赤鹿(レッドディア)が暮らす土地であり、名前が示す情景をそのまま絵にすれば、ラベルの雄鹿になる。つまりあのマークは、名前の“翻訳”のようなものなのだ。
理由2:氏族の紋章に宿る誇り
スコットランドには、氏族(クラン)が代々受け継ぐ紋章の文化がある。ダルモアの堂々たる雄鹿がその好例だ。マッケンジー家に伝わる伝承によれば、1263年、クラン・マッケンジーの始祖コリン・オブ・キンテイルがスコットランド王アレクサンダー3世を突進する雄鹿から救い、その褒美として12ポイント(枝角の尖端が12本)の“王家の牡鹿”を紋章に用いる権利を与えられたという。19世紀後半にマッケンジー家がダルモアの経営に関わると、この誇り高き鹿がボトルに刻まれた。史実か脚色かは措くとして、動物が一族の物語を背負っている点が面白い。
理由3:土地の自然と狩猟文化
動物は、その土地の風景や文化の象徴でもある。フェイマスグラウスの「グラウス」は、スコットランドを代表する猟鳥レッドグラウス(和名アカライチョウ)のこと。ライチョウ属の一種だが、日本の雷鳥(ニホンライチョウ)とは近縁の別種で、冬も羽が白くならない。毎年8月12日の「グロリアス・トゥエルフス」に狩猟が解禁されるこの鳥は、ヒースの荒野とともにスコットランドらしさそのものだ。1896年に生まれたこの銘柄は当初ただの「グラウス」で、人気が出た後の1905年に「フェイマス(有名な)」が冠されたという。ウイスキーが育つ土地の情景を、一羽の鳥が背負っているわけだ。

このコラムの関連
関連するボトル

次に読む

週70時間のバーボン工場と、12人のエンジニア——ウイスキーの現場で争われている「時間」
スコッチとバーボンの現場では、この10年ストライキがくり返されてきた。争われているのは賃上げだけではない。残業、シフト、そして「休暇1日=7時間12分」という計算式だ。

なぜスコッチの蒸溜所は、1回の蒸溜を3分で終えたのか——酒ではなく「スチルの容量」に税をかけた法律
18世紀の末から19世紀の初め、ローランドには1回の蒸溜を3分で終えた蒸溜所があった。税額が造った酒の量ではなく「スチルの容量」で決まったため、造り手は浅く広い皿のようなスチルを回し続けた。制度が酒の形を変えた記録。




