なぜウイスキーの値段はピンからキリまで開くのか
同じ一本の酒でも、千円台から数十万円まで。ウイスキーの価格差はワインやビールよりずっと極端だ。なぜここまで開くのか。熟成年数と「天使の分け前」、樽のコスト、需給とブランド、そして意外な脇役である酒税まで、値段を決める複数の力学をほどいていく。
スーパーの棚に千円台のボトルが並ぶ一方で、百貨店のショーケースには数十万円の値札がついたウイスキーが鎮座している。同じ「ウイスキー」という一本の酒なのに、ワインやビール以上に価格の振れ幅が極端だ。なぜここまでピンからキリまで開くのか。結論を先に言えば、「高い=美味しい」という単純な話ではない。原価・希少性・ブランド・税という複数の力学が重なって、最終的な値段は決まっている。順にほどいていこう。
熟成年数が価格の「背骨」になる
ウイスキーの値段をまず大きく左右するのが熟成年数だ。長く樽で寝かせるほどコストは指数関数的に膨らんでいく。
理由のひとつが「天使の分け前(エンジェルズシェア)」と呼ばれる蒸発だ。樽材は呼吸するように空気を通すため、中身は毎年少しずつ失われていく。その量は気候や樽により異なり一概には言えないが、スコットランドではおおむね年2%前後とされることが多い。単純計算でも、30年寝かせれば当初の樽内の中身は半分近くまで減り、長期熟成であるほど一本あたりに割り当てられる原酒が希少になる。
さらに、蒸発だけがコストではない。何十年もの間、倉庫のスペースを占有し続ける保管費用がかかり、その間ずっと売上にならない在庫として資本が寝続ける。この「時間そのもののコスト」が、年数の長いボトルの価格に容赦なく積み上がっていく。
たとえば熟成年数を表示しない安価なボトルは、比較的若い原酒を主体に効率よく設計されている。
一方、「12年」以上の年数表示があるボトルは、それだけの期間を耐えた原酒だけで構成される。同じ蒸留所の酒でも、この一点だけで価格帯がまるで変わってくる。
樽と原料も効いてくる
原価に効くのは時間だけではない。熟成に使う樽の種類も大きい。使い込まれたバーボン樽(アメリカ産バーボンは新樽が義務づけられ、一度使った樽が大量に市場へ出る)は比較的安価に手に入るが、スペインから運ばれるシェリー樽は近年きわめて高価だ。良質なオーク材の供給が世界的に逼迫していることもあり、樽のコストは年々上がっている。使う樽が変われば、同じ原酒でも仕上がりのコストは変わる。
需給とブランドが「上乗せ」する
ここまでは原価の話だが、実際の店頭価格を跳ね上げるのは需給とブランドだ。とりわけジャパニーズウイスキーは、世界的な人気の高まりに対して熟成された原酒の量が追いつかず、慢性的な品薄が続いてきた。定価そのものの改定に加え、二次流通ではプレミア価格がつくことも珍しくない。
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