なぜウイスキーは大麦だけでなく、トウモロコシやライ麦からも造られるのか
「ウイスキーは大麦の酒」というイメージは根強いが、棚にはトウモロコシやライ麦、小麦から造られたボトルが並ぶ。甘さのトウモロコシ、辛みのライ麦、まろやかさの小麦、香ばしさと糖化を担う大麦麦芽——穀物が味の設計図を決める仕組みを読み解く。
「ウイスキーは大麦から造る酒」——そんなイメージを持つ人は多い。たしかにスコッチのシングルモルトは大麦麦芽(モルト)だけを原料にする。ところがバーの棚を見渡せば、原料に「トウモロコシ」「ライ麦」「小麦」と書かれたボトルがずらりと並んでいる。同じ「ウイスキー」でも、なぜこれほど違う穀物から造られるのか。じつは使う穀物こそ、味の設計図の第一歩なのだ。
そもそもウイスキーは「穀物の酒」
ウイスキーの定義は、国や地域によって細部は違うものの、大枠は「穀物を原料に、糖化・発酵させ、蒸留して樽で熟成させた酒」である。ここでいう穀物は大麦に限らない。デンプンを豊富に含み、糖に変えて発酵させられる穀物であれば、原理的にはウイスキーの原料になりうる。世界で広く使われるのは大麦・トウモロコシ・ライ麦・小麦の四つで、これらをどう組み合わせるかが、酒の骨格を決めていく。
ただし、どんな穀物を使うにせよ欠かせない脇役がある。大麦麦芽(モルト)だ。発芽した大麦には、デンプンを糖へ分解する酵素(アミラーゼ)が豊富に含まれる。トウモロコシやライ麦だけでは糖化がうまく進みにくいため、アメリカのバーボンでもごく一部に大麦麦芽を加えるのが一般的だ。大麦は「主役」であると同時に、他の穀物の糖化を助ける「触媒」でもある。
穀物が変われば、味が変わる
穀物ごとに、酒に与える個性ははっきり異なる。
トウモロコシは、ふくよかな甘さと丸みをもたらす。アメリカのバーボンは法律で「原料の51%以上がトウモロコシ」と定められており、あの分かりやすい甘さの土台になっている。
ライ麦は対照的に、ぴりっとした胡椒のようなスパイシーさと硬質なドライさを生む。アメリカのライウイスキーは「ライ麦51%以上」が条件で、カクテルにも映える辛口の骨格はここから来る。
小麦は、やわらかく穏やかな口当たりが持ち味だ。バーボンの副原料にライ麦の代わりに小麦を使ったものは「ウィーテッド(小麦仕込み)バーボン」と呼ばれ、角の取れたまろやかな甘さで知られる。代表格がメーカーズマークで、原料の一部に赤冬小麦を用いることで、刺激の少ない飲み口を実現している。
そして大麦麦芽は、穀物らしい香ばしさとモルティな厚みを与える。スコッチのシングルモルトが複雑で余韻の長い味わいを持つのは、この麦芽由来の成分に負うところが大きい。
「混ぜる」ことで生まれる設計図
多くのウイスキーは、単一の穀物ではなく複数を組み合わせて造られる。バーボンのレシピ(マッシュビル)は、たとえば「トウモロコシ7割・ライ麦2割・大麦麦芽1割」といった配合で表される。この比率を数%動かすだけで、同じ蒸留所でも甘い酒にも辛い酒にもなる。フォアローゼズが複数のマッシュビルを使い分けるのは、まさに穀物配合を味づくりの道具にしている好例だ。
穀物の違いは蒸留のしかたにも表れる。トウモロコシや小麦を主体にした「グレーンウイスキー」は、連続式蒸留機で高い純度まで蒸留され、軽やかでクリーンな酒質になる。ジャパニーズウイスキーの知多やニッカのカフェグレーンが澄んだ甘さを持つのは、この造りゆえだ。
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