いちばん体感しやすい差は、アルコール度数です。角瓶は40%、ブラックニッカ クリアは37%。わずか3度ほどの違いですが、口に含んだときの厚み・アルコール感に意外と効いてきます(ただし、後で見るように味の方向を大きく決めているのは度数より中身の設計です)。
角瓶は、バーボン樽由来のバニラのような甘い香りと、どっしりした飲みごたえが持ち味。ハイボールにしても味が薄まりにくく、しっかりウイスキーを飲んでいる満足感が残ります。「角ハイボール」が居酒屋の定番になったのは、炭酸で割っても負けないこの厚みがあってこそでした。
一方のブラックニッカ クリアは、名前のとおり「クリア」が身上。後述するように原料の段階からクセのもとを抑えているため、香りは穏やかで、雑味の少ないすっきりした飲み口です。良くも悪くも主張が控えめなので、濃いめのハイボールでも重たくならず、するする飲めてしまいます。
味の差は、実は中身の設計そのものから来ています。
角瓶は、サントリーの山崎蒸溜所・白州蒸溜所でつくられたモルト原酒に、グレーン原酒をバランスよく重ねたブレンデッドウイスキーです。日本を代表するシングルモルトを生む二つの蒸溜所の原酒が土台にあることが、あの甘い香りとコクの背景になっています。
ブラックニッカ クリアは、ピート(泥炭)で燻さずに乾かした「ノンピートモルト」を使うのが最大の特徴。ウイスキーのスモーキーさや個性的なクセはピートに由来する部分が大きいので、それを最初から使わないことで、軽やかでクリーンな味を設計しています。さらに、ニッカならではの「カフェ式連続式蒸溜機」でつくる、まろやかな「カフェグレーン」をブレンド。この組み合わせが、あの飲みやすさを生んでいます。
つまり角瓶は「銘酒の原酒で厚みを出す」方向、ブラックニッカ クリアは「クセを引き算して軽さを出す」方向。似た価格帯でも、設計思想は正反対に近いのです。
二本には、それぞれ長い歴史があります。
角瓶が発売されたのは1937年(昭和12年)。サントリー(当時の寿屋)が国産ウイスキーの普及を目指して世に出した、最初の大ヒット商品でした。重厚な亀甲模様のボトルは80年以上ほとんど姿を変えておらず、「角」の愛称で親しまれています。2008年に始まった「角ハイボール」の仕掛けは、長く低迷していたウイスキー市場を再び動かし、翌年には市場を大きく押し広げるきっかけになりました。
ブラックニッカのブランド自体は、ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝が1956年に生み出したもの。ラベルに描かれた「ヒゲのおじさん」は、ブレンドの名人とされた英国人 W・P・ローリーがモデルの「キング・オブ・ブレンダーズ」で、「ブレンドこそウイスキーの要」という竹鶴の哲学を象徴しています。いま定番の「クリア」は、度数を抑えた飲みやすい一本として1997年に登場し(発売時は「クリアブレンド」、2011年に現名称へ)、ブラックニッカの新しい顔になりました。
実勢価格は時期や店舗で動きますが、目安としてはブラックニッカ クリアのほうが一段安く、700mlでおおむね1,000円前後(店によっては1,000円を切ることも)。角瓶は同じ700mlで1,500円前後というのが多い印象です。大容量のペットボトル(1.9L・4Lなど)を選べば、どちらも1杯あたりのコストはぐっと下がります。
「1円でも安く、たくさん飲みたい」ならブラックニッカ クリア、「もう少し飲みごたえに投資したい」なら角瓶、という位置づけです。
- がっつりしたハイボールにしたい → 角瓶。炭酸で割っても甘みとコクが残り、満足感が高い。
- 食事に合わせて、たくさん軽く飲みたい → ブラックニッカ クリア。すっきりして食中酒に向き、値段も安い。
- ロックや水割りでウイスキーらしさを味わいたい → 角瓶。加水しても骨格が残る。
- ウイスキー特有のクセが苦手/入門したい → ブラックニッカ クリア。角のない味で最初の一本にしやすい。
どちらも「まずい安酒」ではなく、狙いをもって設計された定番です。迷ったら、まずは両方を小容量で買ってハイボールで飲み比べてみるのがいちばんの近道でしょう。
この二本が気に入ったら、同じ価格帯の少し上も試してみる価値があります。ブラックニッカなら、度数45%でコクを増した「ディープブレンド」。サントリーなら、まろやかな熟成感が持ち味の「オールド」。同じ造り手の中で「厚み」がどう変わるかを追うと、ウイスキーの楽しみがぐっと広がります。
同じグレンフィディック12年が、英国の高級スーパーでは£44、日本では3,960円から。価格差5,500円のうち税で説明できるのはどこまでか。日英の酒税を一次資料の数字で分解し、スコットランドの最低単価規制まで確かめる。