なぜウイスキーは、瓶なら立てて保存するのに、樽では横に寝かせるのか——鏡板という弱点と、1879年に生まれた棚
家ではボトルを立てろと言われるのに、熟成庫の樽はたいてい横倒し。向きが逆なのは、樽が「濡らして密閉する」器で、瓶が「濡らさないで守る」容器だから。鏡板という弱点と、1879年に特許になった棚の話。
家でウイスキーを保管するときの鉄則として、たいてい最初に言われるのが「ボトルは立てて置く」だ。ところが蒸溜所の熟成庫を写した写真を見ると、樽はたいてい横倒しで積まれている。立てて置かれた樽は、めったに出てこない。
同じ一本の酒が、瓶では立てられ、樽では寝かされる。この向きの違いは趣味や慣習の話ではなく、「何が液体を閉じ込めているのか」が瓶と樽でまるきり違うことから来ている。
樽を止めているのは、木の膨らみと鉄の締めつけ
ウイスキーの樽は、釘も接着剤も使わずに組まれる(なぜウイスキーの樽は、釘も接着剤も使わずに組まれるのか)。三十枚あまりの側板(ステーブ)を鉄のたがで締め上げ、中に液体を張ると木がわずかに膨らむ。その膨張だけで漏れが止まる。
弱点は二か所ある。ひとつは側板同士の合わせ目。もうひとつは、樽の内側にぐるりと刻まれたクローズという溝に、丸い鏡板(ヘッド)を落とし込んだ継ぎ目だ。樽工房の解説でも、液密にしなければならない要所としてこの二か所が挙げられる。鏡板の継ぎ目に乾かした葦を詰めるのも、ここが弱点のひとつだからにほかならない。
横に寝かせれば、重さは側板とたがが受け止める
樽を横に寝かせ、栓(バング)を真上に向けて置く。これが古くからの基本の置き方だ。長期の保管でバングを下に向けない、というのも伝統的な作法である。
この向きだと、中身の重さは太鼓腹に張った側板と、それを締める鉄のたが全体へ分散される。ところが樽を立てると、その重さがまるごと下の鏡板とクローズ溝に集まる。上に何かを積めば、圧力はさらに積み増されていく。実際、樽を立ててパレットに積む方式については、縦置きと上からの圧力によって漏れの可能性が上がる、と指摘されている。
転がして動かすための、あの太鼓腹
横倒しにはもうひとつ理由がある。転がせるのだ。
樽の胴が中央で膨らんだ部分をビルジ(bilge、胴の最大径部)という。この膨らみのおかげで、中身と樽を合わせれば200キロを優に超える塊を、たった一人が押して回し、向きを変え、目的の場所まで転がしていける。側板が鏡板より少しはみ出した縁(チャイム)は、そのまま手をかける取っ手になる。樽の形は、機械のない時代に人の手で酒を動かすために磨かれた形でもある。
なぜダンネージ式は、低くしか積まないのか
伝統的なダンネージ式熟成庫では、土の床と厚い石壁に囲まれて、樽を横倒しにしたまま2〜3段(資料によっては4段程度)までしか積まない。アイラのキルホーマンは自らの解説で、3段までにとどめるのは空気を通し、均一に熟成させるためだと説明している。スペイサイドのグレンファークラスも数十棟のダンネージ庫を抱え、やはり3段積みを守っている。
対して近代的なラック式は、スチールの棚に横倒しの樽を8〜12段ほどまで納める。棚が重さを受け持つので、高く積める。庫の造りが味をどう変えるかは、別の記事で詳しく書いた(なぜ同じ蒸留所でも「熟成庫」の違いでウイスキーの味が変わるのか)。ここで見たいのは、その棚がどこから来たのか、である。

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