なぜ高級ウイスキーの瓶は、あんなに重いのか——850gの角瓶を持つブランドが、180gの瓶を888本だけ造った理由
棚から下ろした瞬間の「ずっしり」は、中身の量とは関係ない。それでもワインでの調査では重い瓶ほど値段が高く、スコッチ業界は包装を10%軽くする目標を掲げながら、逆に2.6%重くなった。いま瓶を削り始めた造り手たちの話。
酒屋の棚で、二本のウイスキーを持ち比べたことがあるだろうか。片方は片手で軽く持ち上がり、もう片方は手首にずしりと来る。中身はどちらも700ml、注げば同じだけの液体が出てくる。それでも後者のほうが、なんとなく「良さそう」に感じられる。
この感覚を裏づける調査がある。そして、この感覚を狙って瓶は重く作られてきた。ところがいま、その重さを削ろうとする動きが業界の内側から出てきている。ジョニーウォーカー ブルーラベルのおなじみの角瓶は約850g。同じブランドが2024年に公開した瓶は、180gだった。
この記事では、瓶の重さが何を担ってきたのか、それがいまなぜ問題になっているのか、そして削り始めた造り手たちが何をしたのかを追う。
重い瓶ほど高い——ある店の棚では、実際にそうだった
まず、消費者の側の話から。
ベティナ・ピケラス=フィスマンとオックスフォード大学のチャールズ・スペンスは2012年、瓶の重さと価格・品質の関係を調べた研究を『Food Quality and Preference』誌に発表している(Piqueras-Fiszman & Spence, 2012)。対象はワインで、調査は二本立てだ。
ひとつは実地調査。協力を得たワインショップで500本を超える瓶を実際に計量し、うち5カ国・275本を分析した。結果は、瓶が重いほど値段が高いという正の関係だった。ただし有意さの度合いは国によってばらつき、瓶の重さはヴィンテージや度数とも絡んでいる。あくまである店の棚では、重い瓶ほど高かったという話であって、世界中どこでもそうだという証明ではない。
もうひとつが質問紙で、「より高価なワインは(軽い瓶/重い瓶)に入っている」「より品質の高いワインは(同)」という文を9段階で埋めてもらう設計だ。中央の5は「重さと価格・品質に関係はない」を意味する。
ここで出た数字が面白い。自分をワイン初心者だと答えた層(naïve)は、価格について平均7.1、品質について6.6と、はっきり「重い瓶」寄りに答えた。ところがアマチュア、エキスパートと答えた層は、いずれも5.2〜5.5と、ほぼ中央に張りついた。重さを強く手がかりにしていたのは、飲み慣れていないと答えた層のほうだったということになる。
なお、これは瓶を持たせて味を評価させた実験ではなく、期待を答えてもらった調査だ。「重い瓶だと美味しく感じる」と言えるところまでは踏み込めない。それでも、売り場で初めての一本を選ぶ人にとって、重さが値段の代わりに読まれていることは示している。この記事を読んでいるあなたは、おそらく飲み慣れた側だろう。それでも棚に並ぶ瓶は、そうでない人に向けて設計されている。
対象がワインである以上、そのままウイスキーに当てはめるのは慎重であるべきだが、業界の振る舞いはこの発見と整合している。ウイスキーの高級ラインでは、厚い底、張った肩、重い栓が定番の意匠になった。棚に置いたときのトロフィーのような佇まいまで含めて、瓶は商品の一部として設計されている。
瓶の設計が中身の見せ方を左右するという話は、なぜウイスキーの瓶は透明なのかでも触れた。色を見せるために透明を選ぶのと同じ理屈が、重さにも働いている。
業界は「10%軽くする」と決めて、逆に重くなった
ここからが面白いところで、スコッチ業界は自分たちでこの問題に気づいていた。
スコッチウイスキー協会(SWA)は環境戦略のなかで、2020年までに包装材の平均重量を10%減らすという目標を掲げていた。ところが2020年に公表された進捗報告(2018年のデータにもとづく)が示したのは、2012年比で2.6%増えたという数字だった。減らすと決めた6年で、逆方向に動いていたことになる。
SWAはその主因をはっきり書いている。「プレミアム製品に対する消費者需要の継続」――つまり高価格帯が伸びれば伸びるほど、ガラス瓶は重くなった。
同じ報告では、リユースまたはリサイクル可能な包装が94%、包装材のリサイクル材含有率が37%(目標40%)。後者は目標に一歩届いていない。それでも、掲げた方向と逆に動いた項目は重さだけだった。
ガラスの重さは、そのままCO2に効いてくる
なぜ重さが問題になるのか。ガラスは原料を高温で溶かして作る素材で、製造にエネルギーを食う。ディアジオが英国のガラス業界団体British Glassの調査として示している数字はわかりやすい――ガラスを1g減らせば、製造時のCO2は0.5g以上減る。
しかも、運ばれるのは中身だけではない。瓶によっては、中身に匹敵する重さのガラスが一緒に輸送されている。パレットに積める本数が減れば、そのぶん輸送の排出も増える。
ワインの側では、この寄与度が定量的に語られている。多くの研究が、ガラス瓶はワインの温室効果ガス排出全体の3分の1から2分の1を占めると示す。ウイスキーは蒸留と長い熟成に排出が乗るため、1本のなかで瓶が占める比率はワインより小さくなる可能性が高い。ただしスコッチ全体としての内訳が同じ形で公表されているわけではないので、ここは「ワインの数字がそのまま当てはまるわけではない」とだけ言っておく。
比率がどうであれ、包装は削れば確実に減る部分ではある。それでいて、前の節で見たとおり、業界全体としては最後まで手が入らなかった領域でもあった。ここから先は、そこへ個社として踏み込んだ例の話になる。
缶をやめ、瓶を32%削ったアイラの一軒
具体的に削った例を見たほうが早い。
アイラ島のブルックラディは2023年7月、主力の「ザ・クラシック・ラディ」のパッケージを刷新した。やったことは二つある。
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