なぜ、酒を飲む人に夜のこむら返りが多いのか——「水分とミネラル不足」という定番の答えは、思ったより裏づけが乏しい
夜中に足がつるのは脱水とミネラル不足のせい——その定番の説明を、研究は意外なほど裏づけていない。それでも「週1回以上飲む人はオッズ比6.5」という観察は残っている。分かっていることと、いないこと。
夜中、ふくらはぎが石のように固まって飛び起きる。数十秒、どうにもできない激痛が続く。それでいて朝には跡形もなく、なぜあんなに痛かったのかも思い出せない。
こむら返りだ。そして飲む習慣のある人には、こういう夜に覚えがあるのではないだろうか。
定番の説明はこうだ。「酒で脱水したから」「ミネラルが抜けたから」。あまりに広く共有されているので、それ以上は誰も疑わない。
ところが、この定番のほうが裏づけに乏しい。そして観察としての「酒との結びつき」だけは、いまも崩れずにいる。
まず、こむら返りは珍しい現象ではない
米国の家庭医向け総説(American Family Physician)は、夜間の脚のけいれんを訴える成人は50〜60%、子どもでも約7%と整理している。年齢が上がるほど増え、女性にやや多い。
夜に多いこと、ふくらはぎに出やすいこと、数秒から数分でおさまること——この輪郭は多くの人に共通している。つまり、こむら返り自体は珍しい病気ではなく、大半の人が人生のどこかで経験する現象だ。
問題は、その原因が驚くほど分かっていないことにある。
「脱水とミネラル不足」説は、思ったより弱い
同じ総説は、こう書いている。脚のけいれんについては、電解質異常との証明された関連は示されていない。脱水による循環血液量の減少とも、カリウム・ナトリウム・マグネシウムの乱れとも、関連が確かめられていない。
「関係ないと証明された」のではなく、「あるという証拠が出ていない」——ここは区別しておきたい。
補う側から見ても、旗色は同じだ。コクランが2020年にまとめたレビュー(Garrison ら)は11試験・735人を対象にしているが、高齢者の特発性こむら返りを扱ったのは5試験・271人にすぎない。その範囲での結論は、マグネシウムの補充が臨床的に意味のある予防効果をもたらすとは考えにくい、というものだった。
副作用については、経口マグネシウムの試験全体で、下痢を中心とする消化器症状が11%(プラセボ群10%)から37%(同14%)まで試験ごとに幅がある。統合した解析では有意な増加とまでは言えないものの(相対リスク1.51、95%信用区間0.98〜2.33)、エビデンスの確実性は「低い」と評価されている。
では何が起きているのか。総説は、電解質よりも筋の疲労と神経側の不具合を有力視する。下位運動ニューロンの興奮性が上がり、筋が勝手に発火してしまう——そういう筋道だ。ただし正確な機序は、いまも「不明」と書かれる。
念のため補っておく。飲んだ晩に体が水を欲しがるのは確かで、アルコールの利尿作用も、夏のハイボールが水分補給にならないことも別稿で書いたとおりだ。脱水に傾く場面があるのは事実である。ただ「脱水したから足がつった」という因果の線が、まだ確かめられていないというだけだ。だから、水を飲めば防げると言い切ることもできない。
それでも、酒とこむら返りは結びついていた
定番の説明が揺らいでも、観察のほうは消えない。
2018年、フランスの家庭医らが『Annals of Family Medicine』に報告した症例対照研究がある。アルザス地方の67の診療所で、60歳以上の外来患者70組・140人を比べたものだ。こむら返りのある人とない人を、同性・同年齢層で、かつ「けいれんを誘発しうる薬剤または疾患のいずれか1つ」を共有する形でそろえている。
結果はこうだった。週に1回以上アルコールを飲む人の、夜間のこむら返りのオッズ比は6.5(95%信用区間1.68〜38.05)。
一方で、飲む量との比例関係は見えなかった。週あたりのアルコールが1グラム増えるごとのオッズ比は1.001(多変量モデルでは1.000)で、信用区間は1をまたいでいる。ただしこれは「量は関係ない」と示したものではない。70組という規模では、量による差があったとしても検出できない、と読むのが正確だ。
そしてこの研究は、関連を示すものであって、酒がこむら返りを起こすと証明したわけではない。信用区間の上端は38まで開いており、飲酒量は質問票による自己申告でもある。著者らは摂取の様式(短時間に大量に飲む、いわゆるビンジ型か習慣型か)を検討していないが、対象が高齢のフランス人でありビンジ飲酒は稀だとして、慢性的な摂取として読める根拠を添えている。
先に断っておくと、この結びつきを支えているのは、いまのところこの小規模な研究1本である。「気のせいでは?」という段階からは一歩進んだ、という以上のことは言えない。
酒は、筋そのものを削っていることがある
では、脱水でないとしたら、酒はどこを経由してけいれんに結びつくのか。
論文の著者らが挙げた仮説は、筋線維だった。慢性的な飲酒が速筋(II型線維)の萎縮を進め、高齢者の筋をこむら返りを起こしやすい状態にしているのではないか、という見立てである。
これは根拠のない思いつきではない。慢性的に大量の飲酒を続ける人では、40〜60%にII型線維の萎縮が報告されている。古典的な研究では、大腿四頭筋の生検を受けた151人のうち92人(60%)に組織学的な異常が見つかり、そのなかで最も多い所見がII型線維の萎縮だった。筋量が全体で3割ほど落ちることもあり、しかもこの萎縮は末梢神経障害や栄養不良、明らかな肝障害とは独立して起こる。
次に読む

ボイラーメーカーとは何か——ビールとウイスキーを「並べて飲む」一杯は、なぜ世界中の酒場にあるのか
ウイスキーのショットとビールを組み合わせる「ボイラーメーカー」。名前が定着したのは1930〜40年代のアメリカ。同じように混ぜずに並べる飲み方は、スコットランドの「ハーフ・アンド・ア・ハーフ」やフィラデルフィアの「シティワイド」など各地にある。歴史と合わせ方を整理する。

なぜハイボールは唐揚げに合うのか——「炭酸が脂を流す」は本当か。渋みと脂の「綱引き」から読み解く
唐揚げにハイボールが合う理由は「炭酸が脂を洗い流すから」とよく言われる。だが、それを直接確かめた研究は見当たらない。確かめられているのは、渋みが脂のぬるっとした感覚を打ち消すこと。炭酸・度数・苦み・冷たさから、あの相性を分解する。

