なぜ、飲んだ夜だけいびきが大きくなるのか——「のどがゆるむから」では、まだ半分しか説明できていない
家族に指摘されるのは決まって飲んだ翌朝。よく言われる「のどの筋肉がゆるむから」は、実のところ直接の裏づけが薄い。鼻・のどの通り道・呼吸への反応という三つの経路を、メタ解析と古典的な実験から読み解く。
夜にウイスキーを一杯やって寝た翌朝、「昨日のいびき、すごかったよ」と家族に言われる。飲まなかった日には何も言われないのに、飲んだ夜だけ決まって指摘される——心当たりのある人は少なくないはずだ。
理由を調べると、たいてい「アルコールでのどの筋肉がゆるむから」と説明されている。短くて、わかりやすい。実のところ、この一行はあまりに普及していて、当サイトの過去記事にもそう書いてある。
ただ、この説明を正面から測りにいった研究の結果は、思ったほどすっきりしていない。ゆるむこと自体が否定されたわけではないが、「それが主犯だ」と言い切れるだけの直接の裏づけは、意外なほど薄いのだ。
この記事では、まず飲酒で呼吸がどれだけ変わるのかを数字で押さえ、そのうえで実際に確かめられている三つの経路——鼻、のどの通り道そのもの、そして呼吸の乱れに対する体の反応——を順に見ていく。最後に、それでも夜の一杯を楽しむための組み立て方をまとめる。
まず、どれくらい変わるのか
睡眠中の呼吸の乱れは、ふつうAHI(無呼吸低呼吸指数)——1時間あたりに呼吸が止まった、あるいは浅くなった回数——で測る。飲酒でこの数字がどう動くかは、複数の実験をまとめたメタ解析がある。
Mayo Clinic の Kolla らが2018年に Sleep Medicine Reviews 誌へ発表した系統的レビュー・メタ解析は、14件の研究・422人(71.9%が男性)を統合した。飲酒後、AHI は平均で1時間あたり2.33回増え(95%信頼区間 1.41〜3.25)、睡眠中の平均酸素飽和度は0.60ポイント、最低値は1.25ポイント下がった。
数字だけ見れば、平均の押し上げ幅は決して大きくない。重要なのは、その内訳のほうだ。同じ解析で、いびきをかく人では1時間あたり4.20回、すでに閉塞性睡眠時無呼吸と診断されている人では7.10回と、増え方がはっきり大きくなる。
2020年に Otolaryngology–Head and Neck Surgery 誌へ出た別のメタ解析(13研究・279人)も同じ方向で、飲酒によってAHI は1時間あたり3.98回増え、睡眠中の最低酸素飽和度は2.72ポイント下がったと報告している。こちらはもともといびきや無呼吸を起こしやすい人を主に扱った数字なので、一般の平均値としては読めないが、傾向は一致している。
つまり、飲酒は誰のいびきも一律に大きくする装置ではない。もともと気道が狭くなりやすい人ほど、大きく振れる。同じ量を飲んで、隣で寝ている人は静かで自分だけ盛大に鳴る——その差は、飲み方より先に、条件の違いが決めている部分が大きい。
ただし、その条件は変えられないものばかりではない。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、閉塞性睡眠時無呼吸は肥満が最大の発症危険因子だと明記している。一方で、肥満でなくても下あごが小さい・後退している、首が短いといった身体的な特徴が原因になることもあり、痩せているから大丈夫とは言えない、とも書いている。
「のどの筋肉がゆるむ」の、確かなところと怪しいところ
では、なぜ酒が入ると気道は狭くなるのか。定番の説明はこうだ。
眠ると全身の筋肉の緊張はゆるむ。ところが、のど(咽頭)の気道は、鼻の穴や気管とちがって骨や軟骨で支えられていない、やわらかい管である。ここが眠っているあいだも開いていられるのは、舌を前に引くオトガイ舌筋をはじめとした上気道の拡張筋が、呼吸のたびに働き続けているからだ。アルコールは中枢神経の働きを抑えるから、この筋肉の踏ん張りも鈍る——という筋書きである。
理屈は通っている。ただ、この筋書きを直接測りにいった研究の結果が、少し意外だった。
2023年に Experimental Physiology 誌へ報告された研究は、健康な成人を対象に(参加16人、解析対象15人)、呼気アルコール濃度が約0.07%になるまで飲んでもらい、オトガイ舌筋の単一運動単位——筋肉を動かす神経のひと単位ぶんの信号——を記録した。結果は、安静時の筋活動も、記録された運動単位の数も、発火頻度も、プラセボと変わらなかった。著者らはアルコールの影響を「非常に軽微」と表現し、飲酒が閉塞性睡眠時無呼吸を悪化させる経路は、上気道の抵抗の増加や、覚醒反応の変化といった別のところにある可能性を指摘している。
ここは慎重に読みたい。この実験は「起きているあいだ」の「健康な若い人」を対象にしたもので、眠っている最中の筋活動を測ったわけではない。運動単位まで解析できたのは9人と、規模も小さい。だから「筋弛緩は無関係」と読むのは行きすぎだ。
言えるのは、あちこちで見かける「のどの筋肉がゆるむから」という一行は、思われているほど直接には裏づけられていないということ。実際に起きていることは、もう少し多層的である。
経路その一——鼻がふさがる
ひとつめは鼻だ。
アルコールには血管を広げる作用がある。鼻の粘膜は細かい血管が密に走った組織なので、そこが充血してふくらむと、空気の通り道が狭くなる。飲むと鼻がつまる感覚には、お酒を飲むと鼻がつまる・じんましんが出る理由で扱ったとおり、ヒスタミンなど別の要因も重なる。
充血そのものを撮影した研究があるわけではないが、。1985年に 誌へ報告された Robinson らの研究では、健常者11人に別々の日にアルコールとプラセボを与えて比べたところ、鼻腔抵抗は45分後に2.4から3.7 cmH₂O/L/s(この時点では有意差なし)、(プラセボでは変化なし)。1987年に 誌へ出た Eccles と Tolley の実験でも、18〜20歳の健常者に体重1kgあたり2mLのウォッカ(上限160mL。体重60kgなら純アルコールで約38g、上限まで飲めば約51gにあたる。90分後の血中アルコール濃度は平均0.11%と、かなりの深酒である)を飲ませたところ、吸う息の鼻腔抵抗が有意に上昇した。ただしこちらは対象7人(抄録には8人と記されているが、方法と結果はいずれも7人ぶんだ)で、プラセボとの比較もない小さな研究なので、Robinson らの結果を補強するもの、という程度に受け取っておきたい。
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