なぜ「飲んでいる最中」に頭が痛くなるのか——それは二日酔いとは別の頭痛で、かつて「カクテル頭痛」と呼ばれていた
翌朝ではなく、飲んでいる最中にやってくる頭痛。国際頭痛分類では二日酔い頭痛とは別物として番号が振られ、かつて「カクテル頭痛」と呼ばれていました。赤ワインの亜硫酸説の現在地から、ウイスキーの一杯に効く実際的な対策まで。
飲み終えた翌朝ではなく、まだグラスが手元にあるうちに、こめかみがずきずきしはじめる。二杯目、三杯目——楽しいはずの時間の途中で、頭のほうが先に音を上げてしまう。
これは「二日酔いが早く来た」と受け取られがちだ。けれど医学の分類では、この二つはきちんと別物として扱われている。名前も、時間の条件も、違う。
国際分類では、二つの頭痛に別の番号がついている
国際頭痛学会がまとめる「国際頭痛分類 第3版(ICHD-3)」には、飲酒による頭痛の項目がある。そこは二つに枝分かれしている。
ひとつが 8.1.4.1 即時型アルコール誘発頭痛(immediate alcohol-induced headache)。かつては「カクテル頭痛(cocktail headache)」と呼ばれていた。条件は、飲酒から 3時間以内に頭痛が起きること、そして飲酒をやめてから72時間以内に自然におさまることだ。
もうひとつが 8.1.4.2 遅延型アルコール誘発頭痛(delayed alcohol-induced headache)。旧称は「二日酔い頭痛」。こちらは飲酒から 5〜12時間後に発症し、発症してから72時間以内に消える。分類では「もっともありふれた二次性頭痛のひとつ」と位置づけられている。
どちらも、痛みの性質としては「両側に出る」「拍動する(ずきずきする)」「体を動かすと悪化する」のうち少なくとも一つを満たすことが条件になっている。感じ方はよく似ている。違うのは時計のほうだ。
なお即時型の「3時間以内」には、グラスを置いたあとの時間も含まれる。飲みながらでも、店を出た直後でも、3時間以内ならこちらに入る。
そしてICHD-3は、即時型のほうが遅延型よりずっとまれだと明記している。飲んでいる最中の頭痛は、二日酔いよりも珍しい出来事なのだ。
「赤ワインの亜硫酸が悪い」は、まだ証明されていない
では、その場で来る頭痛は何が引き起こしているのか。ここで必ず名前が挙がるのが、赤ワインの亜硫酸塩(サルファイト)やヒスタミン、チラミンといった「容疑者」たちだ。
先に断っておくと、この節と次々節で紹介するパンコネージのレビューとライデン大学の調査は、どちらも片頭痛のある人を対象にした誘因調査である。ICHD-3の即時型頭痛は「ほかに適切な診断がない場合」に使う枠なので、酒で誘発された片頭痛発作は片頭痛のほうにコードされる。診断上は別物が、飲む側の体感では地続きになっている——そう捉えて読んでほしい。
そのうえで、この分野の総説は歯切れが悪い。イタリアの神経内科医パンコネージが2008年に『The Journal of Headache and Pain』へ発表したレビューは、1988年から2007年10月までの研究を洗い直したうえで、赤ワインが主な誘因だと報告される一方、白ワインや他の酒のほうが関与しているとする研究もあると指摘している。生体アミン、亜硫酸塩、フラボノイド系ポリフェノール、セロトニンの働き、血管拡張作用——どの容疑者を検討しても、結論は不確かなままだと書かれている。
さらにこのレビューは、過去を振り返って尋ねる調査では片頭痛患者のおよそ3分の1が「アルコールが誘因になることがある」と答えるものの、「頻繁に誘因になる」と答えるのは10%にとどまり、前向きに追跡する研究ではアルコールの重要性はかなり限定される、とまとめている。同じ著者らが2026年6月に発表した最新の総説も、近年の前向き研究は「誘因としての限定的な役割をおおむね追認している」としており、この見立ては20年近く経っても大きくは動いていない。
つまり「あの酒のせいで頭が痛くなった」という実感は、思っているほど再現しない。
2023年、赤ワインに新しい容疑者が挙がった
とはいえ、研究が止まったわけではない。2023年、カリフォルニア大学デービス校とカリフォルニア大学サンフランシスコ校のチームが『Scientific Reports』に、赤ワイン頭痛の新しい仮説を発表した。
主役はケルセチン。ぶどうの果皮に多いポリフェノールだ。体内で代謝されてできるケルセチンの抱合体が、アセトアルデヒドを分解する酵素 ALDH2 の働きを邪魔する——というのが論文の主張である。ALDH2の働きが抑えられれば、アセトアルデヒドが溜まる。頭痛、紅潮、動悸。おなじみの症状が並ぶ。
ここで、日本の読者ははっとするかもしれない。それは顔が真っ赤になる体質と、まったく同じ出口だからだ。日本人のおよそ4割は、生まれつきALDH2の働きが弱い。赤ワインは薬理的に、その体質を一時的に真似させているのかもしれない——そういう筋書きになる。
ただし、これはあくまで仮説である。試験管のなかでALDH2が阻害されることを示した段階で、人で確かめる試験はこれからだ。そしてウイスキー党にとって肝心なのは、この論文自身が、赤ワインはケルセチンとその配糖体を白ワインや他の酒より格段に多く含むと述べている点だろう。仮説が当たっていたとしても、それは赤ワインの量の桁を前提にした話であって、ウイスキーの一杯にそのまま当てはめられる説明ではない。
では、ウイスキーの一杯は何をしているのか
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