ブラインド・テイスティング用のグラスは、なぜ青いのか——白ワインを赤く染めた実験と、色を消す道具
ブラインド用のグラスには、中身の色が見えない青や黒のものがある。色を隠すと何が変わるのか——白ワインを赤く染めた2001年の実験と、黒いグラスを使った追試、そしてウイスキーの色が読み違えやすい理由をたどる。
棚の前で、二本のボトルを見比べる。値段も年数もそう変わらない。片方は淡い麦わら色、もう片方は深い琥珀色。多くの人は、濃いほうへ手を伸ばす。
濃い色は「長く寝かせた」「樽が効いている」「濃厚だろう」と読める。読めてしまう、と言ったほうが正確かもしれない。グラスに注いだ瞬間、私たちは飲む前に採点を始めている。
だから、ウイスキーのグラスには中身の色が見えないものがある。青や黒のガラスで作られた、ブラインド・テイスティング専用のグラスだ。わざわざ見えなくして、何が変わるのか。ワインの世界で20年以上議論されてきた実験と、その追試をたどっていくと、色を消すという奇妙な作法の理由が見えてくる。
「色は気にしないで」では、気にしないことができない
先に断っておくと、これは「濃い色に騙されるな」という話ではない。人間の目は優秀で、色から情報を読み取ってしまうこと自体は止められない。問題は、その読み取りが鼻より先に働くことにある。
香りを言葉にするのは、意外に難しい。グラスから立ちのぼるものを、記憶の中の何かに結びつけて名前を付ける。その照合のとき、目から入った色がヒントとして——本人の意思とは関係なく——差し出される。
このヒントがどれくらい強いのかを、正面から測った有名な実験がある。
白ワインを赤く染めたら、赤ワインの言葉が出てきた
2001年、ボルドー大学醸造学部とINRAモンペリエの研究者——G・モロー、F・ブロシェ、D・デュブルデューの三人が、Brain and Language 誌に「The color of odors(においの色)」という論文を発表した。
彼らはまず、テイスティングコメントの語彙を分析した。ワインの香りを表す言葉は、たいていそのワインと同じ色をした物で表されている——白ワインなら白桃やレモン、赤ワインならカシスやチェリーというように。当たり前のようでいて、香りの成分そのものに色が付いているわけではない以上、少し奇妙な偏りではある。
そこで彼らは、こういう実験をした。白ワインを、匂いのない色素で赤く染める。使ったのはブドウから精製したアントシアニン色素で、それ自体に匂いが感じられないことは、事前の識別試験で確かめてある。中身は白ワインのまま、見た目だけが赤ワインになったわけだ。
これを、同学部の学部生54人に評価させた。結果は論文の要旨に短く書かれている。赤く染められた白ワインは、赤ワインの語彙で描写された。目から入った情報が、鼻から入った情報を押しのけたのである。
著者らは、この錯覚が「においを言葉にする段階」で起きていると結論づけている。ただしそれは、この一つの実験だけからではなく、当時の心理物理学や脳画像の知見と突き合わせたうえでの解釈だ。
「専門家がころっと騙された話」として面白おかしく引用されることの多い実験だが、被験者はプロのテイスターではなく醸造学を学ぶ学部生であり、原典の主張も、もう少し抑制的である。
20年後の追試は、黒いグラスを持ち出した
この実験には、2022年にドイツの研究グループ(トゥヴィステル、フォン・カステル、オーバーフェルト=トゥヴィステル)が学会で報告した追試がある。その手続きが、今回の話には示唆的だ。
用意されたのは三つ。白ワイン(ショイレーベ)、それを無臭の食用色素で赤く染めたもの、そして本物の赤ワイン(ピノ・ノワールとドルンフェルダーのブレンド)。ここまでは2001年と同じ発想だが、彼らはもう一段階加えた。同じ三つを、中身の色が見えない黒いグラスでも出したのである。
色が見える条件では、モローらの結果が再現された。赤く染めた白ワインは、染めていない白ワインより「赤ワインらしい香り」を強く感じ取られた。
面白いのは黒いグラスのほうだ。色を消して嗅ぐと、白ワインにも赤ワイン的な香りはあるにはあった。ただし、本物の赤ワインより弱い、と評価された。
研究者らが持ち出した説明は「選択的注意」である。赤い色は、ありもしない香りをゼロから作り出すのではない。もともとその液体に含まれていて、赤ワインと結びついた香りの成分のほうへ注意を向け直し、そちらを大きく感じさせる。逆に、そぐわない香りは背景へ退く。
2001年の著者らは「言葉にする段階」に、追試の著者らはもっと手前の「注意の配り方」に原因を置いた。心理の過程としては別の場所だが、色が働くのは香りそのものではなく、香りを扱う私たちの側だ、という点は共通している。
これをウイスキーに引き直すと、こうなる。**濃い琥珀色は、その一杯の中にある甘さや樽やドライフルーツの側へ、あなたの注意を寄せている。**存在しない味を発明しているわけではないが、何を大きく感じるかの配分を、飲む前に決めてしまっている。

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