なぜスコットランドの新年は、ウイスキーを持って隣家の戸を叩くのか——ホグマネイの「ファースト・フッティング」と、やかんで運んだ年越しの酒
スコットランドの年越し「ホグマネイ」では、年明け最初の客がウイスキーを携えて訪れる。言葉の由来、クリスマスが長く抑え込まれた歴史、かつて銅のやかんで運んだ温かい酒までたどり、なぜウイスキーなのかを考える。
大晦日の夜、スコットランドでは日付が変わって年が明けた瞬間から、家々の戸口に人が立つ。最初に敷居をまたぐ客は「ファースト・フット(first-foot)」と呼ばれ、その人がその家の一年の運を連れてくる、と言われてきた。そして手ぶらで来てはいけない。携えていく品の定番のひとつが、ウイスキーだ。
この記事では、スコットランドの年越し「ホグマネイ(Hogmanay)」に、なぜウイスキーを持って他人の家を訪ねる習わしがあるのかを、言葉の由来、クリスマスとの関係、かつて酒を運んだ「やかん」の話までさかのぼってたどる。
「ホグマネイ」はもともと「年越しの贈り物」だった
ホグマネイは大晦日、あるいは年越しの祝祭全体を指すスコットランドの言葉だ。語源ははっきりしていない。ギリシャ語説、北欧語説、ゲール語説などが唱えられてきたが、スコットランド語の辞典(Dictionaries of the Scots Language)は、古フランス語の aguillanneuf と、そのノルマン方言形 hoguinané に連なる語とみる説を有力としている。
面白いのは、古い用法での意味だ。同辞典の古スコットランド語の部によれば、この語は「大晦日の贈り物」、そしてその贈り物をねだる呼び声を指していた。スコットランド語での最初の記録は1604年、エルギンの記録で、ある男が土曜日に「ハグモネイ」を歌っていたとして咎められている。家々を回って年越しの施しを求める習俗が、すでにあった可能性がうかがえる。
つまりホグマネイという言葉には、早くから「年越しに何かを贈り、求める」という意味が宿っていた。ウイスキーを抱えて隣家を訪ねる今の姿にも、どこか通じるものがある。
なぜクリスマスより年越しなのか
スコットランドで年越しがこれほど大きな祭りになった背景には、クリスマスが長く抑え込まれてきた歴史がある。
1560年の宗教改革以降、改革派のスコットランド教会(のちの長老派)は、クリスマスを「カトリック的な祝祭」とみなして退けた。1640年には、スコットランド議会がクリスマス休暇(Yule vacance)を廃止する法律まで通している。その後も教会の姿勢は長く変わらず、12月25日がスコットランドの公休日になったのは1958年、ボクシング・デー(12月26日)に至っては1974年のことだ。
人々は冬至を越える祝いを、年越しのほうへ寄せた。いまもスコットランドでは1月1日に加えて1月2日も休日になっている。年が明けた夜に友人や隣人の家を渡り歩き、二日がかりで祝う——その余裕が、いまも暦に残っているかのようだ。
ファースト・フットの作法
年明け直後、その年最初に家の敷居をまたぐ人が、ファースト・フットになる。伝承では、背が高く、髪の黒い男性が縁起がよいとされてきた。金髪の見知らぬ大男が戸口に立つのはヴァイキングの襲来を意味したから、という説明がよく添えられるが、これは後世の説明の域を出ない。辞典に残る用例は18世紀初め(1719年)からで、起源ははっきりしない。
手土産にもそれぞれ意味がある、と言われる。
- 石炭:炉の火が絶えないように
- 硬貨:お金に困らないように
- 塩:暮らしに味わいがあるように
- ショートブレッドやブラックバン(果実を詰めた濃厚なケーキ):食べるものに困らないように
- ウイスキー:一年を楽しく、陽気に過ごせるように
迎える側も、客を手ぶらでは帰さない。訪ねてきたファースト・フットには食べ物と酒がふるまわれ、持ってきたウイスキーで新年の乾杯をする。ウイスキーは「渡す品」であると同時に「その場で交わす酒」でもある。
かつては「やかん」で運んだ
じつは、昔の年越し客が抱えていたのは、ウイスキーの瓶だけではなかった。
18世紀後半から19世紀にかけてのファースト・フットは、「ヘット・ピント(het pint、熱い1パイント)」と呼ばれる温かい飲み物を銅のやかんに入れて持ち歩き、道で出会う人にもふるまっていた、とストラスクライド大学の資料は伝えている。中身はエールやビールに蒸溜酒、砂糖、香辛料を合わせたものだった。スコットランド語の辞典には、1818年の記録として、エールと蒸溜酒に卵やクリーム、砂糖を合わせた年越しの熱い飲み物も載っている。凍える夜道で冷えた体を温める、一種のホットカクテルだ。
当時のエディンバラの年越しは、相当なにぎわいだったらしい。1852年1月3日付の『スコッツマン』紙は、旧市街のトロン教会の前に大群衆が集まり、時計が12時を打つと歓声が上がって、例年どおりファースト・フッティングが盛んに行われたと報じている。
やかんの温かい酒から、瓶のウイスキーへ。形は変わっても、「酒を持って戸口に立ち、その場で分け合う」という骨格は変わっていない。
なぜ、ウイスキーだったのか
石炭も塩もケーキも「この家が一年困らないように」という願掛けだが、ウイスキーだけは少し性格が違う、と筆者は思う。ほかの品は家に置いていくものなのに、ウイスキーはその場で開けて、一緒に飲むものだからだ。
スコットランドには、取っ手が二つある浅い杯で酒を回し飲みする文化があり、年越しにうたう〈〉は、旧友と「親愛の一杯」を酌み交わそうという歌だ。ウイスキーは、人と人のあいだに置かれる酒として親しまれてきた。年の境目に最初の客とを交わすのは、その一番わかりやすいかたちなのだろう。
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