なぜ「グラウス(雷鳥)」は「フェイマス(有名)」になったのか——スコットランドが100年飲み続ける、気取らない一杯
赤い雷鳥のラベルでおなじみのフェイマスグラウス。なぜ「グラウス」は「フェイマス」を名乗り、1980年以来スコッチ売上No.1を守り続けるのか。パースの家族の物語から、2025年の意外な身売りまで。
スーパーやバーの棚で、赤い雷鳥(グラウス)のラベルを見たことがある人は多いはずだ。派手さはない。値段も手頃だ。それでもこの一本は、1980年以来ずっとスコットランドで一番売れているウイスキーであり続けている。なぜ「グラウス(雷鳥)」は「フェイマス(有名な)」を名乗り、地元の人々に40年以上も選ばれ続けるのか。その理由は、華やかな受賞歴ではなく、"毎日飲める一杯"であろうとした姿勢にある。
パースの家族が、狩猟鳥に名を借りた
物語は1896年、スコットランド中部の街パースに始まる。ワイン・スピリッツ商だったグロッグ家の当主マシュー・グロッグ(Matthew Gloag、1850〜1912)が、自社のブレンデッドウイスキーに「グラウス・ブランド」と名づけた。グラウス=レッドグラウスは、スコットランドの高地を象徴する狩猟鳥だ。
19世紀末のハイランドには、狩猟や釣りを楽しむ紳士階級が集った。1日中丘を歩いたあとの一杯——マシューはその祝杯にふさわしい酒として、彼らが親しむ狩猟鳥の名を選んだ。ボトルに描かれた赤い雷鳥は、マシューの娘フィリッパ(Phillippa)がスケッチしたもの。家族の手仕事から、あの象徴的なラベルは生まれた。
「グラウス」が「フェイマス」になった日
面白いのは、最初から「フェイマス」だったわけではないことだ。当初の名は素っ気なく「ザ・グラウス」。ところが評判が広まるにつれ、マシュー自身が自分の酒を"famous(有名な)グラウス"と呼ぶようになり、1905年、正式に「ザ・フェイマス・グラウス」へと改名した。
つまり「フェイマス」は、作り手が最初から掲げた売り文句というより、人気の高まりを追認する形であとから冠した名なのだ。名前そのものが、この銘柄の性格——気取らず、暮らしに根を張る酒——を言い当てている。
スコットランドが「毎日飲む」一杯
フェイマスグラウスの真価は、地元での定着ぶりにある。1980年以来、スコットランド国内で売上第1位を守り続けてきた(長らく2位はベルズ)。特別な日のためではなく、平日の夜にふつうに開けられる——それがこの一本の居場所だ。
味わいは、なめらかでほどよくシェリーの甘みを含んだ、角の立たないバランス型。長らくその心臓部には、同じエドリントン社が持つ名門シングルモルト、ハイランドパークやグレンロセスの原酒が使われてきた。看板に有名蒸溜所の名は出さないが、中身は上質なモルトに支えられている——この"見えない贅沢"こそ、コスパの良さの正体だ。
ハイボールにすれば、シェリー由来の甘みとまろやかさがソーダで軽やかに開き、食事にも合わせやすい。もう少しスモーキーな一杯が欲しい日には、ピートを効かせた「スモーキーブラック」を選ぶと表情がぐっと変わる。
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