なぜ嘉之助蒸溜所は、ポットスチルを三基並べたのか——形の違う二つの再留釜と、焼酎蔵が受け継いだ「メローコヅル」の樽
小さな蒸溜所なら二基一組が一般的なポットスチルを、鹿児島・吹上浜の嘉之助は三基並べた。初留6,000L・再留3,000Lと1,600L、形も違う釜でつくり分ける原酒と、1957年に生まれた樽貯蔵焼酎「メローコヅル」の樽を焼き直して使う、焼酎蔵ならではのウイスキーづくりを読み解く。
鹿児島県日置市。日本三大砂丘のひとつに数えられる吹上浜の段丘の上に、嘉之助蒸溜所は建っています。母体は、焼酎「メローコヅル」で知られる小正醸造。2017年にウイスキーづくりを始めた、まだ若い蒸溜所です。
この蒸溜所の蒸溜棟には、銅のポットスチルが三基並んでいます。小さな蒸溜所なら、初留釜と再留釜を一基ずつ、計二基で回すのが一般的です。なぜ嘉之助は、わざわざ三つ目を置いたのか。この記事では、三基の役割と、焼酎蔵ならではの樽の話までをたどります。
まず、ふつうの蒸溜所は「二基一組」
モルトウイスキーは、単式蒸溜器(ポットスチル)で二回蒸溜するのが基本です。一回目の初留で発酵液(もろみ)からアルコール分をざっと取り出し、二回目の再留で香りの芯を選び取ります。
そのため、初留釜と再留釜のペアが最小単位になります。規模が大きくなれば、このペアを二組、三組と増やしていく。釜の大きさや数がなぜ揃わないのかは初留釜と再留釜の大きさの話で詳しく書きましたが、「一組の二基」から始まるのが、小さな蒸溜所の標準的な姿です。
嘉之助の三基は「初留一基・再留二基」
公式の製品資料によれば、嘉之助の釜はいずれも三宅製作所製の銅製で、初留釜が6,000L、再留釜が3,000Lと1,600L。つまり一つの初留釜に対して、大きさの違う再留釜が二つある構成です。
しかも三基は大きさだけでなく、三基とも形が違います。釜の首(ネック)の形や、首から冷却器へ伸びる管(ラインアーム)の角度が、それぞれ異なるように造られています。
ポットスチルは、形ひとつで酒質が変わる道具です。首が長いか短いか、ラインアームが上を向くか下を向くかで、蒸気が釜の中で何度も液体に戻る「還流」の量が変わり、軽やかな原酒にも重い原酒にもなります(詳しくはポットスチルの形の話)。
ふつうの蒸溜所は、再留釜の形を一つに決めて「わが家の味」を守ります。嘉之助は逆に、形の違う再留釜を二つ持つことで、一つの蒸溜所の中に複数の個性を抱え込んだわけです。
狙いは「混ぜる前提」の原酒づくり
では、その違いを何に使うのか。蒸溜所のブレンダー・神野僚太さんは取材に対し、焼酎造りで養った技術を生かしながら三基を使い分けることで「多彩な原酒を造ることができます」と話しています。海外の輸入元も、形の違う釜でつくった原酒を重ね合わせ、ブレンドすることで複雑な香味を引き出す設計だと紹介しています。
ここに、焼酎蔵の発想が見える気がします。焼酎の世界では、蒸溜の仕方や貯蔵方法が違う原酒を合わせて一本の味を組み立てるのは身近な仕事です。最初から「混ぜて仕上げる」ことを前提にするなら、手元の原酒の引き出しは多いほどいい。三基目の釜は、その引き出しを増やすための投資と読むこともできます(これは筆者の見立てで、蒸溜所がそう説明しているわけではありません)。

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