なぜウイスキーの生産量は「純アルコール」で数えるのか——「年1,500万リットル」はボトル何本分? 税金と度数が決めた物差し
蒸溜所の「年間生産能力1,500万リットル」は、瓶に詰める液体の量ではない。水を除いた純アルコール(LPA)の量だ。度数が工程ごとに変わり、税金も純アルコールに掛かるから。ボトル本数への換算法と、日本の酒税との意外な共通点まで解説する。
蒸溜所の紹介記事を読んでいると、「年間生産能力1,500万リットル」といった数字に出会います。700mlのボトルに直すと約2,140万本……と計算したくなりますが、それは正しくありません。
この「リットル」は、瓶に詰める液体の量ではなく、液体から水を除いた純粋なアルコールだけの量だからです。英語ではLitres of Pure Alcohol、略してLPAと書かれます。
この記事では、スコッチの世界がなぜわざわざ「純アルコール」で量を数えるのか、その数字をボトルの本数に直すとどうなるのかを解説します。
LPAとは——水を抜いて数えた量
計算は単純で、液体の量×アルコール度数です。
度数40%の700mlボトルなら、0.7リットル×0.40=0.28LPA。逆に言えば、1LPAは40%・700mlのボトル約3.57本分にあたります。同じ1LPAでも、度数46%なら約3.1本、カスクストレングスの60%なら約2.4本分です。
つまりLPAは、「度数をそろえずに比べられる共通の物差し」です。ここに、この単位が使われる理由が詰まっています。
理由1:ウイスキーの度数は、工程ごとに変わり続ける
ウイスキーは、造られてから瓶に詰まるまでのあいだに何度も度数が変わります。
蒸溜したての原酒(ニューメイク)は度数が高く、スコッチではこれに加水して63.5%前後で樽に詰めることが多いとされます(→なぜスコッチは63.5%で樽詰めされるのか)。熟成中は、樽の中身が年に2%ほど蒸発するといわれ(→天使の分け前)、量も度数も少しずつ動きます。最後に加水して40%や46%で瓶詰めされます。
「何リットルの液体か」で数えると、加水のたびに数字が増えたり、同じ原酒が工程ごとに別の量に見えたりします。しかし水を足しても、アルコールそのものの量は変わりません。工程をまたいで同じ原酒を追いかけるには、純アルコールで数えるのがいちばん確かなのです。
理由2:税金が「純アルコール」に掛かる
もうひとつの大きな理由は税金です。
英国の酒税(Alcohol Duty)は、スピリッツについて純アルコール1リットルあたりいくらという形で課されます。英国政府の税率表では、2026年2月1日以降、度数22%を超える酒は1LPAあたり33.99ポンドです。40%・700mlの1本(0.28LPA)なら、付加価値税を除いた酒税だけで約9.5ポンドになる計算です。
しかも、熟成中のウイスキーは税が「保留」された保税倉庫(excise warehouse)で眠っており、税は倉庫から出して国内で販売に回すときに支払うのが基本です。何年も先に課税される原酒の在庫を、税務当局も造り手も同じ物差しで記録しておく必要があります。その物差しが純アルコールです。
ちなみに英国が度数の測り方を、19世紀以来の「プルーフ(Sikes方式)」から、いまの「20℃での体積パーセント(OIML方式)」に切り替えたのは1980年1月1日のことです(英米でプルーフの定義は異なります。→アメリカンウイスキーのプルーフ表示)。
理由3:造り手の「成績表」も純アルコールで書かれる
蒸溜所の腕前を測る代表的な指標に、麦芽1トンから何LPAのアルコールが取れたかという収率があります。スコッチのモルト蒸溜所では、おおむね1トンあたり390〜420LPAが目安とされます。
麦芽の品質、発酵、蒸溜の効率は、すべてこの数字に表れます。生産能力も、収率も、税金も、在庫も、同じ単位でつながっているわけです。
「ボトル何本分か」に直してみる
LPAをボトルの本数に直すときは、LPA÷0.28(40%・700mlの場合)で概算できます。
たとえばザ・マッカラン。2014年に着工した新蒸溜所の生産能力は、業界筋の推定で年約1,500万LPAと報じられました。40%・700ml換算で約5,360万本分です。

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