なぜカバランは、台湾から「世界最高のシングルモルト」になれたのか——缶コーヒーの会社と、亜熱帯の猛熟成
台湾から生まれ、2015年に「世界最高のシングルモルト」に輝いたカバラン。缶コーヒーの会社が挑んだ「不可能」、亜熱帯の猛烈な熟成、そしてスコッチを黙らせた二つの事件から、その愛される理由を読み解く。
台湾——ウイスキーの伝統国とは誰も思わなかったこの島から、2015年に「世界最高のシングルモルト」が生まれた。カバランである。スコットランド、アイルランド、日本といった五大産地の外側から、なぜこれほどのウイスキーが現れたのか。その物語は「不可能」と笑われたところから始まる。
缶コーヒーの会社が挑んだ「不可能」
カバランを生んだのは、缶コーヒー「ミスターブラウン」などで知られる台湾の大企業、金車(キングカー)グループだ。創業家の李添財(り・てんざい)氏は、長年ウイスキー造りを夢見ていた。しかし台湾では長らく酒類が専売で、民間の蒸留は許されなかった。転機は2002年の台湾のWTO加盟。これで扉が開き、金車は宜蘭(ぎらん)県に蒸留所を建てる。
2005年に着工し、2006年に最初のスピリッツが流れ出た。当時、亜熱帯の島でシングルモルトなど造れるはずがない、というのが業界の常識だった。蒸留所名の「カバラン」は、この地にかつて暮らした先住民カバラン族と、宜蘭の古い呼び名に由来する。
「熟成の権威」と、亜熱帯という賭け
金車が招いたのが、熟成と樽の世界的権威ジム・スワン博士だった。彼が向き合ったのは、台湾の高温多湿という「弱点」である。
ウイスキーは樽で眠るあいだ、一部が蒸発して失われる。これを天使の分け前(エンジェルズシェア)と呼ぶが、スコットランドで年に約2%なのに対し、台湾では年10〜15%にも達する。放っておけば酒はみるみる目減りしてしまう。だがこの猛烈な環境は、裏を返せば熟成が異常に速いことを意味した。宜蘭での1年は、スコットランドの4〜5年分に相当するとも言われる。若くても濃く、深い——カバランはこの気候を欠点ではなく武器に変えた。この仕組みはなぜ台湾やインドのウイスキーは短い熟成でも高く評価されるのかで詳しく触れている。
世界を黙らせた、二つの事件
転機は2010年。英タイムズ紙が仕掛けた「いたずら」のようなブラインド試飲が、スコットランドのリースで開かれた。詩人ロバート・バーンズを祝うバーンズ・ナイトに合わせ、スコッチやイングランドの銘柄に混ぜて出されたのが、まだ2年熟成のカバランだった。評論家チャールズ・マクリーンらが審査した結果、1位に輝いたのはカバラン。「南国のフルーツジャム」と評されたその味は、専門家たちを驚かせた。
そして2015年、ワールド・ウイスキーズ・アワード(WWA)で、カバラン「ソリスト ヴィノ・バリック」がついに世界最高のシングルモルトに選ばれる。ブラインド審査でスコッチを抑えての栄冠だった。同じ年、別のソリスト「アモンティリャード」は世界最高のシングルカスク・シングルモルトにも輝いている。
Kavalan Solist Vinho Barrique Single Cask Strength
🇹🇼 台湾 ・ カバラン蒸留所 ・ シングルモルト ・ NAS ・ 57%
なぜ愛されるのか——そして最初の一本
カバランの魅力は、受賞歴だけではない。若い酒とは思えない濃密な果実味と、樽由来の甘い余韻。マンゴーやパイナップルを思わせる南国的な香りは、スコッチにも日本のウイスキーにもない個性だ。
入口としてまず薦めたいのは、蜂蜜のようにまろやかな「クラシック」。カバランらしさを最も素直に味わえる本命の一本だ。もう少し軽快に楽しむなら、ハイボールにも応える「キングカー コンダクター」が手に取りやすい。そしてワイン樽やシェリー樽を巧みに操るのもカバランの真骨頂で、ポート樽で追熟した華やかな「コンサートマスター」、濃厚な「シェリーオーク」と、樽違いで表情ががらりと変わる。
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