なぜウイスキーにも「テロワール」が語られ始めたのか——「土地の個性は蒸留で消える」という常識に挑む造り手たち
ワインの言葉「テロワール」がなぜ今ウイスキーで語られるのか。「蒸留すれば土地の個性は消える」という常識に挑むウォーターフォードやブルックラディ、そして2021年の査読論文が示した「産地は香りに残る」という答えを読み解く。
ワインを語るとき、必ず出てくる言葉がある。「テロワール」——ブドウが育った土地の土壌、気候、地形が、そのままグラスの中の味に映し出されるという考え方だ。ところが同じ言葉が、近年ウイスキーの世界でも真剣に語られるようになった。長いあいだ「ウイスキーにテロワールなど無い」とされてきたにもかかわらず、だ。
なぜウイスキーでは「土地の味」が否定されてきたのか
理由ははっきりしている。ウイスキーはワインと違い、原料を発酵させたあとに蒸留し、さらに何年も樽で熟成させる。この二つの工程が、大麦が育った畑の微妙な差を洗い流してしまう——そう考えられてきた。実際、スコッチの業界では長らく「大麦は糖化されて発酵のもとになるデンプンの供給源であり、品種や産地で最終的な味はほとんど変わらない」というのが常識だった。
この「品種で味は変わらない」という前提そのものについては、Malt Note の別稿でも詳しく触れている。樽と蒸留の影響があまりに大きいため、原料の個性は埋もれてしまう、という説には確かに一理あった。
「常識」に挑んだ造り手たち
その常識に真っ向から挑んだのが、アイルランドのウォーターフォード蒸留所だ。創業者マーク・レイニアはもともとワイン商で、テロワールの思想をウイスキーに持ち込んだ人物。同蒸留所は原料の大麦を農場ごとに分けて貯蔵・製麦・蒸留し、産地の個性をそのまま瓶に閉じ込めようとしている。取り組む農場は数十にのぼり、土壌タイプごとに分けて仕込む徹底ぶりで、彼らはこの概念を「Téireoir(テイローア)」として商標登録までしている。
レイニアはかつてブルックラディの復活期にも同じ思想を持ち込んでいた。ブルックラディが造る「アイラ・バーレイ」は、アイラ島内の農場で育てた大麦だけを使った一本だ。さらに同蒸留所は、いまではほとんど栽培されない古代品種「ベア・バーレイ」(オークニー諸島産)を復活させた実験的なボトルまで手がけ、原料そのものの個性を掘り下げている。

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