コニャックの「XO=10年」は、ウイスキーの「10年」と同じ数え方ではない——4月1日に全員がいっせいに歳をとる「熟成勘定」の話
ウイスキーの「12年」は樽で過ごした実時間を指す。ところがコニャックの年数は、毎年4月1日にひとつ繰り上がる「熟成勘定」で数えられ、同じシーズンの原酒は全員が同じ誕生日を持つ。数え方が分かれた理由を、一次資料からたどる。
ウイスキーのラベルに「12年」と書いてあれば、それは樽の中で12年を過ごしたという意味だ。当たり前に思えるが、隣の棚のコニャックでは、この当たり前が通用しない。
コニャックの「XO」は最低10年と決まっている。ただしその10年は、樽に詰めた日から数え始めた10年ではない。数え始めるのは、毎年4月1日。その蒸留シーズンに生まれた原酒は、いつ樽に入ったかにかかわらず、全員がその日にいっせいに歳をとる。
この記事では、コニャックの「熟成勘定(compte)」という数え方を追いかけながら、なぜウイスキーには同じ仕組みが要らなかったのかまで考えてみたい。ラベルの数字の後ろで動いている時計が、酒によって違うという話である。
ウイスキーの年数は、樽に入れた日から数える
まずウイスキー側の確認から。スコッチウイスキー規則(2009年)は、熟成を「700リットル以下のオーク樽に入れ、スコットランド国内で3年以上寝かせること」と定めている。つまり規則の言う熟成とは、樽の中にある期間そのものを指す。
だから瓶に移した時点で、年齢は止まる。ガラスの中では実際ほとんど変化が進まないという事情もあるが、より正確には、樽から出た時間は定義上カウントされないのだ。棚で20年寝かせても「12年」は「12年」のままである。
そしてラベルの数字は、混ぜ合わせた原酒のうちいちばん若いものを基準にする。12年と書かれていれば、いちばん若い一滴でも12年は木に触れていた、という意味だ。
要するにウイスキーの年数は、そのボトルの中身が個別に過ごした実時間である。銘柄をまたいでも、蒸留所をまたいでも、物差しは同じものが使われている。
コニャックは、カレンダーの日付で数える
コニャックの物差しは、ここが違う。
出発点は、ぶどうが年に一度しか穫れないという事実だ。収穫したぶどうをワインにし、それを蒸留する。この蒸留には期限があり、収穫の翌年3月31日までに終えなければならない。仕様書が定めているのは、この終わりの日だけである。始まりに法的な決まりはなく、実務では発酵が済んだ晩秋から冬にかけて釜に火が入る。ひとつの年のコニャックは、およそ半年に満たない窓の中で生まれることになる。
そして4月1日、その窓で生まれた原酒がまとめて「熟成勘定0(compte 0)」になる。11月に樽へ入った原酒も、3月31日ぎりぎりに入った原酒も、区別なく同じ0だ。以降は毎年4月1日が来るたびに、勘定がひとつずつ繰り上がっていく。
つまりコニャックの年齢は、樽ごとの実時間ではなく、共有された誕生日を何回迎えたかである。同じ蒸留シーズンの原酒は全員が同学年で、4月1日にいっせいに進級する。
「XO=10年」が意味しているのは、下限である
この数え方を踏まえると、等級の意味が正確に見えてくる。公式に定められた最低熟成年数はこうだ。
- VS——熟成勘定2
- VSOP——熟成勘定4
- XO——熟成勘定10
ここで大事なのは、蒸留した日に付くのは0ではなく「00」だという点だ。0が与えられるのは、蒸留期間が終わったあとに最初に来る4月1日。蒸留の期限が3月31日である以上、0の付与日は必ず蒸留日より後になる。
3月末に蒸留された原酒なら、その翌日の4月1日に0を受け取る。この原酒が10に届くのは、ちょうど10年後の4月1日だ。同じシーズンでも11月に樽へ入った原酒は、同じ4月1日に10へ進むころ、木の中で10年と5か月ほどを過ごしていることになる。
だから熟成勘定は、実時間を短く見せる方向には働かない。制度が保証しているのは「10年」で、樽の中の実時間はそれと同じか、少し長い——そう理解しておけばよい。
もうひとつ押さえておきたいのは、この年数が中身のうちいちばん若い原酒を基準にしている点だ。これはスコッチの年数表記とまったく同じ考え方で、XOと書かれていても大半はもっと古い、ということが普通に起きる。
なおXOの下限は、そう遠くない過去に動いている。2018年4月1日以降に出荷されるXOは、熟成勘定10以上でなければならなくなった。それ以前の下限は6だったので、この一線を境に「XO」という三文字の重みはかなり変わっている。ただし切り替えには猶予があり、すでに瓶詰めされていた旧基準の在庫は、申告のうえ翌2019年3月末まで売ることが認められた。棚が入れ替わるまでには一年ほどかかった計算になる。
なぜウイスキーには、この仕組みが要らなかったのか
ここまで来ると、素朴な疑問が残る。ウイスキーはなぜ、いっせいに歳をとらせる必要がなかったのか。
まず制度の実態から言えば、熟成勘定はそもそも在庫を申告し、管理するための勘定である。原酒を勘定という単位で束ね、当局が在庫を追えるようにするための枠組みで、味の保証書として設計されたものではない。
そのうえで、なぜブランデーの側ではこの枠組みが成り立つのか。フランスのブランデーの仕様書は、蒸留に期限を引く理由をはっきり書いている。蒸留用のワインには亜硫酸を加えないため、長く置くと保存が利かないからだという。ぶどうは年に一度しか穫れず、そのワインも待ってくれない。結果として、一年ぶんの原酒がごく狭い窓に集中して生まれる。それなら誕生日を揃えても、実態から大きくは離れない。
ウイスキーはそうはいかない。穀物は乾かせば貯蔵が利くので、蒸留所は一年じゅう仕込める。生まれる日が十二か月に散らばっている状態で共通の誕生日を当ててしまうと、原酒によっては年齢が実時間から一年近くずれてしまう。樽ごとに実時間で数えるほうが理にかなう、というわけだ。
数え方の違いは、格の違いでも厳しさの違いでもなさそうだ。原料が季節に縛られるかどうかという、もっと手前の条件が効いていると考えると、説明がつく。
その傍証もある。同じフランスのブランデーでも、アルマニャックは蒸留のやり方がまるで違い、公式の説明では約95%が連続式の蒸留器で一度だけ蒸留される。流出時の度数は仕様書で52〜72.4%と定められ、実際には52〜60%あたりに落ち着くことが多い。それでいて、蒸留を3月31日までに終える点も、4月1日を起点に勘定を進める点も、XOの下限を2018年に10へ引き上げた点も同じだ。造りは分かれても、数え方だけは揃っている。
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