ウイスキーの目減りは、天使だけの仕業ではない——1年目の損失が倍になる理由と、木が抱えこんだ分を取り返したバーボン
熟成中に減る分は「天使の分け前」と呼ばれる。だがケンタッキーのある蒸溜所の数字では、1年目だけ損失がちょうど倍になる。空へ消えたのではなく、樽の板が飲み込んだ分——その正体と、2011年にそれを取り返しにいったバーボンの話。
ウイスキーは、樽の中で減る。減った分は「天使の分け前(エンジェルズシェア)」と呼ばれ、蒸発して空へ消えていく——熟成中のウイスキーはなぜ目減りするのかで書いたとおりです。
ところが、ケンタッキーのある蒸溜所が公表している数字を見ると、妙なことに気づきます。1年目だけ、減り方がちょうど倍なのです。 天使が最初の年だけ大食いするとも思えません。ではその上乗せ分は、どこへ行ったのか。
1年目は6%、2年目からは3%
エライジャ・クレイグやエヴァン・ウィリアムズを抱えるヘヴンヒル蒸溜所は、自社サイトで熟成の数字をかなり率直に書いています。ウイスキーは樽詰めの時点で125プルーフ(62.5%)に調整され、53ガロンの樽へ入る。そして——「平均して、1年目は6%失われ、その後は毎年3%失われる」。
同社が、1年目だけ大きくなる理由として名指ししているのが、soakage(ソーケージ)——「木への染み込み」です。蒸発ではなく、吸収。減った分は空へ行くばかりではなく、樽の壁の中にも入っていきます。

ひとつ断っておくと、この6%・3%はケンタッキーの高温の熟成庫での数字です。冷涼なスコットランドで言われる年2%前後とは前提が違うので、そのまま持ち出さないでください。
木は、濡れるのではなく飲む
オーク材には目に見えない通り道があり、樽は見た目ほど閉じていません。庫内の温度が上がれば板は膨らみ、下がれば縮む。その動きのたびに、中身は焼かれた炭の層を越えて板の奥へ入り込み、そこで水が木の糖分を溶かし、アルコールがタンニンを引き出す。反応が起きているのは樽の内面だけではなく、板の内部でもあるわけです。
つまり木は、表面が濡れているのではありません。中まで含んでいる。 そして飲み込んだ分は、樽を空にしても出てきません。栓を抜いて傾ければ中身は落ちてきますが、板が抱えたぶんは木の中に残ったままです。
では、どれくらい飲まれたのか
ここは、はっきりさせておいたほうがいい部分です。
53ガロンは約200リットル。1年目の6%は、およそ12リットルにあたります。蒸溜所自身はこの6%全体を染み込みによるものと書いていますが、1年目にも蒸発は起きているはずなので、12リットル全部が木に入ったとは考えにくい。逆に、1年目の上乗せ分(6%と3%の差=約3ポイント)だけを染み込みと見れば、6リットル、1.6ガロンほどになります。
いっぽう解説記事の多くは、樽材が抱えこむ量を1樽あたり2〜3ガロン(およそ8〜11リットル)としています。さきほどの二つの見積もりは、その下と上をまたぐ格好です。 確かなのは、無視できる量ではないこと、そしてことです。
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