オーガニックのウイスキーは、どこまでが有機なのか——認証が見ているのは畑で、味を決める樽は範囲の外にある
「オーガニック」と書かれたウイスキーが保証しているのは大麦の育て方で、香味を決める樽は多くの認証で対象外。中古樽のまま認証を保つ造り手と、樽まで有機にした造り手がいる。日本では2025年10月に表示の条件も変わった。
酒販店の棚に、「ORGANIC」と刷られたスコッチが置かれるようになった。値札は、隣に並ぶ同じくらいの年数のボトルより、少し高い。
では、その一本は何が有機なのだろうか。大麦か、酵母か、仕込み水か、それとも樽か。
先に答えを書くと、認証が厳密に見ているのは畑である。そして、ウイスキーの香味の多くを担うとされる樽は、多くの場合その範囲の外にある。だから「オーガニック」と名乗る二本が、まるで違う造りをしている、という事態が起こりうる。
認証が縛っているのは、大麦の育て方
有機認証の中心にあるのは原料の農産物だ。イギリスの場合、蒸溜所が使う大麦は化学合成の肥料や農薬に頼らずに育てられ、DEFRA(英環境・食糧・農村地域省)が承認した認証機関によって有機と認証されている必要がある。承認機関は英国全体で八つ、うちグレートブリテンで使えるのは六つである。
スコットランド西海岸のNc'nean(ノックニーアン)蒸溜所は、この点を明快に説明している数少ない造り手だ。同社の大麦はすべてスコットランド産だが、西海岸では育てられないため、東部の数軒の農家から買っていると公表している。認証を担うのはバイオダイナミック協会(Biodynamic Association)。英国でデメター認証を出している団体だが、DEFRA承認の有機認証機関(GB-ORG-06)でもあり、ここで効いているのは後者の有機認証のほうだ。検査は毎年入る。
費用のことも隠していない。同社は有機であることによる原価の上乗せを「一本あたり約3ポンド。大麦の値段と、増える事務の分だ」と説明している。
大麦そのものの値段も違う。専門誌『Whisky Magazine』は、有機の麦芽用大麦は慣行栽培のものより「およそ50〜100パーセント高い」と書いている。しかも同誌によれば、有機大麦は1トンあたりのアルコール収量が慣行栽培より10ほど低いという。畑でも蒸溜所でも、コストは二重に乗る。
なお「スコッチの大麦はスコットランド産でなければならない」という決まりは存在しない(なぜ「スコットランドの酒」なのに、大麦はスコットランド産でなくてもいいのか)。有機認証もまた、産地ではなく育て方を見る仕組みである。
樽は「原材料」に数えられていない
ここからが、この言葉のいちばん分かりにくいところだ。
ウイスキーは、原料の穀物と水と酵母だけでできているわけではない。スコッチなら少なくとも三年、樽の中で過ごす。色も、バニラや果実の印象も、その多くは樽から来る。感覚としては、樽こそ主材料に近い。
ところが有機認証の枠組みは、多くの場合、樽を原材料として数えない。制度の書きぶりを見ると理由が分かる。たとえば、かつて日本で使われていた国税庁の「酒類における有機の表示基準」が並べていた条件は、原材料と使用割合(有機農畜産物等の重量割合が95パーセント以上であること、食品添加物は必要最小限であること)、製造その他の工程に係る管理、品目の表示——の三つだった。熟成に使う容器への言及はどこにもない。原材料と工程と表示を見る枠組みであり、樽はそのどの欄にも入っていないのだ。オークションハウスUnicorn Auctionsの解説も、「樽は通常ウイスキーの原材料とはみなされないため、たいていの場合、認証機関はそれが有機であることまでは求めない」と端的に書いている。
結果どうなるか。前にバーボンやシェリーが入っていた中古樽を使いながら、有機認証を保てる。
先ほどのNc'neanがまさにそれだ。蒸溜所まるごと有機で操業する造り手だが、看板商品のカスク構成は、同社が現在公表している数字でSTRの赤ワイン樽が55パーセント、アメリカンウイスキーの空き樽が43パーセント、オロロソシェリー樽が2パーセント。アルコール度数46パーセントで瓶詰めされる。中身は堂々たる中古樽の組み合わせで、それでも「オーガニック・シングルモルト」として売られている。ルールを曲げているのではなく、ルールが樽を問うていない。
ちなみにSTR樽——内側を削り、焼き直して再生させた樽——は、新興蒸溜所が若い原酒を早く仕上げるためによく使う手法だ(、)。
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