ウイスキーはヴィーガンなのか——グルテンは蒸留器が置いていったが、この問いは樽の前歴に残る
原料は穀物と水と酵母。それでも「ウイスキーはヴィーガンか」という問いは消えない。グルテンと違い、蒸留ではこの問いに答えが出ないからだ。清澄という工程と、シェリー・ポート・ビールという樽ごとに異なる前歴を辿る。
海外のウイスキー記事を読んでいると、「Is whisky vegan?」という問いが定番として居座っているのに気づく。原料は穀物と水と酵母。動物が入り込む隙は無さそうに見えるのに、この問いは消えない。
Malt Note では以前、ウイスキーはグルテンフリーなのかという記事を書いた。あのときの答えははっきりしていた。原因となるタンパク質は不揮発性で、蒸留器を越えられない。原料が大麦だろうと小麦だろうと、蒸留の出口では置き去りにされる——工程そのものが答えを出してくれる問いだった。
ヴィーガンかどうかは、そうはいかない。動物由来のものが関わるとすれば、それは液体の中身よりも、むしろその液体が通ってきた容器の履歴のほうだからだ。蒸留は、履歴までは消してくれない。
ビールやワインには「沈める」工程があり、ウイスキーにはない
まず、なぜ酒に動物が出てくるのかを押さえておきたい。
鍵になるのは**清澄(fining)**という工程だ。発酵を終えた酒には、酵母や小さなタンパク質が漂って濁りを生む。これを澄ませるために、液体に何かを加えて濁りの元を抱き込ませ、底へ沈めて取り除く。この「加えるもの」に、伝統的に動物由来の材料が使われてきた。
英国の飲酒啓発団体ドリンクアウェア(Drinkaware)は、代表例としてアイシングラス(魚の浮袋から作るゼラチン質)、貝殻、ゼラチンを挙げている。ワインではこれに卵白(アルブミン)や牛乳由来のカゼインが加わる。いずれも最終的には沈殿として取り除かれるが、工程に動物を使っていることに変わりはない。
この工程がどれほど当たり前だったかを示す出来事が、2015年11月に起きている。ギネスが、長く使ってきたアイシングラスをやめると発表したのだ。親会社ディアジオはダブリンのセント・ジェームズ・ゲート醸造所に新しい濾過設備を導入し、2016年4月には樽詰め(ケグ)の全量が切り替わったことを確認した。ただし缶と瓶は、旧来の工程で詰めた在庫が残るため保証できず、世界中の全製品がアイシングラス不使用になったと確認されたのは2018年である。世界でもっとも有名な黒ビールが魚の浮袋と縁を切るのに、設備投資と数年の移行期間が要ったわけだ。
ウイスキーには、この工程がない。蒸留を終えた時点で液体は澄んでおり、濁りを沈める必要がないからだ。瓶詰め前の冷却濾過は、冷やしてフィルターに通すという物理的な工程で、「何かを加えて沈める」清澄とは仕組みが違う。ドリンクアウェアも、ヴィーガン協会の見解として、蒸留酒はふつうヴィーガンだと紹介している。
樽のほうも同じだ。ウイスキーの樽は釘も接着剤も使わず、オークの側板と金属のたが、そして継ぎ目を塞ぐ葦だけで組まれている(樽職人の手仕事)。ここにも動物は出てこない。
では、なぜ問いが残るのか。
樽が「前に何を入れていたか」
答えは、多くのウイスキーが中古の樽を使う酒だという点にある。逆にいえば、バーボンやテネシーウイスキーのように法律で新樽の使用が定められたカテゴリーには、樽の前歴という問いはそもそも立たない。前に何も入っていない樽だからだ。
問題になるのは、前歴のある樽のほうである。
シェリー樽を考えてみる。シェリーはワインであり、ワインには清澄の工程がある。しかもこれは過去形の話ではない。シェリーの統括団体である原産地呼称統制委員会(Consejo Regulador)は、瓶詰め工程の説明のなかで、そのまま瓶詰めに回すワインは、まずベントナイトと卵白またはゼラチンで清澄し、浮遊する固形分を沈殿させると現在形で書いている。卵白は、いまも使われている材料だ。
その名残は、菓子の由来話にも残っている。ヘレス・デ・ラ・フロンテーラの修道院で生まれたと伝えられるトシーノ・デ・シエロ——卵黄と砂糖と水だけで作る濃厚なプリン——は、ワインを澄ませるのに白身を使い、余った黄身の使い道として考案された菓子だと言われる。あくまで伝承だが、こうした話が語り継がれてきたこと自体が、卵白清澄という工程の存在感を物語ってはいる。
つまり「シェリー樽で寝かせたウイスキーはヴィーガンと言い切れない」という主張には、一応の筋が通っている。英語圏の解説はたいてい、ここで止まる。
EUのルールも、この筋を後押しする。ワインでは2012年7月以降、卵や乳に由来する清澄剤が最終製品から検出された場合に、ラベルへの表示が義務づけられた。義務がかかるのは定められた分析法で検出できたときで、目安は1リットルあたり0.25ミリグラム——ほぼ検出できる下限にあたる水準である。ともあれ、清澄剤の痕跡を書かせる仕組みはワインの側にある。
ところが、その樽で数年寝かせたウイスキーのラベルには、何も書かれない。日本の食品表示基準は第5条で「酒類を販売する場合」と名指しして、原材料名・アレルゲン・原産国名の表示を要しないと定めている(ラベルが素っ気ない理由)。
ただし、清澄は「樽を出たあと」の工程である
ここから先は、英語圏の解説があまり触れていないところだ。
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