ウイスキーは血圧を上げるのか——シングル1杯半から下がり、3杯を超えた晩だけ十数時間後に上がる
飲んだ直後、血圧はむしろ下がる——ただしそれはシングル1杯半ほどからの話。反転して上がるのは、高用量(男性ならシングル3杯強)を飲んだ晩の十数時間後だ。コクランの解析が示した二相性と、厚労省が高血圧を「0g<」に置く根拠、そしてウイスキー何杯までかの換算まで。
健康診断で血圧を指摘されたとき、まず疑うのは塩分だろう。では、毎晩のウイスキーはどうなのか。
この記事では、飲んだ直後の血圧に何が起きるのか、それを毎晩くり返すと何が起きるのか、日本の公的な指針は飲酒と高血圧をどう扱っているのか、そして「ウイスキーで何杯まで」なのかを、研究とガイドラインの数字で追いかける。
結論を先に書いておく。ある量を超えて飲むと、直後の血圧はむしろ下がる。そしてもっと多く飲んだ晩だけ、十数時間後に反転して上がる。 下がる量と上がる量は、別の線引きなのだ。
飲んだ直後、血圧はいったん下がる
アルコールが血圧に与える短期の影響については、コクランが2020年に32件のランダム化比較試験・767人分をまとめている。そこで見えたのは、通念とは逆の姿だった。
純アルコール14〜28g(中用量。女性ではおよそ20gまで)を飲んだ場合、6時間以内に収縮期血圧は5.6mmHg、拡張期血圧は4.0mmHg下がる。高用量(このレビューの定義では男性30g超・女性20g超)でも、6時間以内に3.5mmHg/1.9mmHgの低下。
ただし、14g未満の少量では収縮期血圧はほとんど動かない。後で換算するが、40度のウイスキーをシングル(30mL)で1杯飲んで9.6gなので、多くの人の「一杯」はこの少量域に入る。「酒を飲むと血圧が下がる」は、あくまである量を超えてからの話だ。
どの用量でも共通するのは、心拍数の上昇である。少量で毎分5.1拍、中用量で4.6拍、高用量で5.8拍増える。アルコールには血管を広げる作用があり、管が広がれば内側にかかる圧は下がる。下がった分を補うように心臓が速く打つ——という代償反応に加えて、アルコール自体が交感神経を刺激するとも考えられている。少量では血圧がほとんど動かないのに心拍だけ上がることは、後者の働きをうかがわせる。飲むと動悸がするのは、この一連の反応の一部だ。
(ちなみに飲むと顔が赤くなるほうは、エタノールそのものではなく代謝産物のアセトアルデヒドによる血管拡張で、体質によって起きる別の現象である。)
なお、この試験群は平均33歳の健康な人が中心で、参加者767人のうち642人が男性だった。レビュー自身が、主に健康な男性に当てはまる知見だと断っている。高血圧の人を含む試験もあるが数は限られ、血圧をすでに指摘されている人にそのまま当てはまるとは限らない。
反転してくるのは、13時間より後
問題はここからだ。高用量を飲んだ場合だけ、7〜12時間後もまだ3.7mmHg/1.7mmHg下がったままなのに、13時間以降の時間帯には収縮期3.7mmHg・拡張期2.4mmHgの上昇へと反転する。心拍数も2.7拍高いままだ。夜に飲めば、反転が観測される帯は翌朝以降にあたる(検診前の禁酒がどこまで効くかは、項目によって違う)。
中用量では、7時間以降に有意な変化は観察されていない。反転が確認されているのは、あくまで高用量の話である。
この下降と上昇の二段構えを「二相性」と呼ぶ。下がった血圧を戻そうとして交感神経系の活動が高まり、それが行き過ぎる——というのは一つの仮説で、飲酒が血圧を上げる仕組みは、最初の報告から一世紀を経たいまも確定していない。レニン・アンジオテンシン系の活性化、血中コルチゾールの増加、血管内皮の機能低下など、候補は多すぎるほどある。
毎晩くり返すと、血圧はどう動くか
短期の揺れではなく、年単位ではどうか。ここは大規模なコホート研究のメタ解析が答えを出している。
2023年に『Hypertension』誌へ出た解析は、追跡期間の中央値5.3年・計19,548人の7研究を統合したものだ。飲まない人と比べて、追跡期間中の血圧の上がり幅は1日12gで収縮期+1.25mmHg、24gで+2.48mmHg、48gで+4.90mmHg。そして著者らは、量と影響のあいだに閾値らしきものは見当たらなかった、と述べている。ここまでなら安全、という線が見えなかったということだ。
翌2024年に同誌へ出た解析はさらに大きい。23研究・60万人超、高血圧の発症4万5千件以上。1日12gを基準に置くと、まったく飲まない人の発症リスク比は0.89、24gで1.11、36gで1.22、48gで1.33と上がっていく。
ただし男女で形が違う。男性はほぼ全域で直線的に上がるのに対し、女性で明確な上昇が見えるのは12g/日を超えてからだ。
数mmHgと聞くと小さく思えるかもしれない。ただ、日本高血圧学会は2025年の改訂で、降圧目標を患者背景によらず原則「診察室血圧130/80mmHg未満(家庭血圧125/75mmHg未満)」に統一している(従来は75歳以上などで140/90mmHg未満とされていた)。目標にあと数mmHg届かない人にとって、その数mmHgは小さくない。
日本の指針は、高血圧を「0g<」に置いている
厚生労働省は2024年2月、国として初めての飲酒ガイドラインを公表した。その表1には、日本人を対象にした研究に基づき、疾病ごとに「これ以上飲むとリスクが上がる」量が並んでいる。
大腸がんは男女とも週150g(1日20g程度)。出血性脳卒中は男性で週150g。肝がんは男性で週450g。——そして高血圧は、男女ともに「0g<」。凡例にはこうある。「0g<」は少しでも飲酒をするとリスクが上がると考えられるもの。
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