ウイスキーの「並行輸入品」と「正規品」は何が違うのか——安さの理由と、買う前に押さえる三つのこと
同じ銘柄なのに店によって値段が違うのはなぜか。正規品と並行輸入品を分けるのは品質ではなく流通経路。法的な位置づけ、価格差の理由、「日本語ラベル」の誤解、そして買う前の確認ポイントを整理する。
ネット通販でウイスキーを探していると、同じ銘柄・同じ容量なのに、店によって値段が数百円から千円以上違うことがある。商品説明をよく見ると、片方には「正規品」、もう片方には「並行輸入品」と書かれている。
安いほうは何かワケありなのか。中身は違うのか。ここでは、この二つが流通のどこで分かれるのか、値段の差はどこから来るのか、そして買う前に押さえておきたいことを整理する。
「正規品」と「並行輸入品」は、流通経路につけられた呼び名
正規品とは、メーカーが国ごとに定めた輸入元(いわゆる正規代理店)を通って日本に入ってきたものを指す。並行輸入品は、その経路とは別に、海外の卸や小売から買い付けて日本へ持ち込んだものだ。
つまり二つを分けているのは「どのルートで海を渡ったか」であって、品質の等級ではない。「並行」という言葉も、正規ルートと並んで走るもう一本の道、というほどの意味合いである。
ややこしいことに、「正規品」「並行輸入品」という言葉自体に法令上の定義はない。書き方は売り手に委ねられている部分が大きい。とはいえまったく自由というわけでもなく、並行輸入品を「正規品」と称するような表示は、景品表示法上の問題になりうる。
並行輸入は「グレー」なのか
まず前提として、本物を海外から仕入れて売ること自体は、違法ではない。
最高裁は2003年(平成15年)2月27日のいわゆるフレッドペリー事件判決で、真正商品の並行輸入が商標権侵害としての実質的違法性を欠く場合の三つの要件を示した。
- その商標が、外国の商標権者または許諾を受けた者によって適法に付されたものであること
- 外国の商標権者と日本の商標権者が同一人か、法律的・経済的に同一人と同視しうる関係にあり、同じ出所を示すものであること
- 日本の商標権者が直接・間接に品質管理をなしうる立場にあり、その登録商標が保証する品質において実質的な差異がないと評価できること
なお、この事件自体は、ライセンス契約に反して製造された商品が問題となり、結論としては商標権侵害が認められている。それでもここで示された三要件は、真正商品の並行輸入が適法とされる範囲を画す基準として、いまも使われている。
裏を返せば、この枠組みは「正規品と実質的に同じ品であること」を前提にしている。まっとうな並行輸入品は、素性の怪しい安物ではなく、経路の違う同じ商品なのだ。
安さはどこから来るのか
価格差の主な要因は、流通の段階数とコストの乗せ方にあると説明されることが多い。正規ルートは国内の輸入元を経て卸・小売へ渡り、そこには国内での広告・販促・イベントといった費用も乗る。並行ルートでは、現地の店頭価格や為替、仕入れロットの条件次第で、その分を切り詰められることがある。
ただし「並行品=常に安い」ではない。円安の局面や、現地で品薄になっている銘柄では、並行品のほうが高値になることも普通に起きる。両者は別々の値付けの根拠で動いている、と捉えるのが実態に近い。
スーパーや通販で価格差が目につきやすいのは、世界中で大量に流通している定番ボトルだ。

このコラムの関連
関連するボトル


次に読む

ウイスキーストーンは本当に「意味ない」のか——氷に敵わない物理的な理由と、それでも出番がある一杯
「溶けない氷」ウイスキーストーンは、なぜ冷えないと言われるのか。氷の強さの正体である融解潜熱から理由を解き明かし、それでも生きる場面と、素直に氷を使うべき場面を分けて整理する。

なぜ飲んだ翌朝も、息や体が酒くさいのか——肺から抜けるアルコールと、「もう抜けた」の落とし穴
翌朝、歯を磨いても息が酒くさいのはなぜか。匂っているのは口に残った酒ではなく、血液から肺を通って出てくるアルコールそのものだ。三つある「酒くささ」の正体と、消えるまでの時間の目安、そして「寝れば抜ける」という誤解を解く。

日本のクラフトウイスキーの選び方——大手以外の蒸溜所から、自分の一本を見つける
山崎も白州も手に入りにくい今、選択肢になるのが小さな蒸溜所の一本。厚岸・桜尾・遊佐・嘉之助・三郎丸・静岡を味と造りの方向から整理し、買う前に知っておきたい前提と手頃な入口まで案内する。



