なぜ「色の濃い酒ほど悪酔いする」と言われるのか——コンジナーの正体
ウイスキーやブランデーは翌朝がつらく、透明なウォッカやジンは比較的軽い——酒場でよく交わされるこの経験則には、じつは科学的な裏づけがある。鍵を握るのは「コンジナー」と呼ばれる副生成物。その正体と、二日酔いをめぐる誤解までを読み解く。
「色の濃い酒は悪酔いする」——飲み手のあいだで長く語り継がれてきた経験則だ。琥珀色のウイスキーやブランデーを深酒した翌朝はことのほかつらく、無色透明なウォッカやジンは比較的軽い、という感覚を持つ人は多い。これはただの気のせいなのか。それとも、酒の色そのものに何か理由があるのか。
コンジナーという「エタノール以外の成分」
答えの鍵を握るのが「コンジナー(congener)」と呼ばれる物質群だ。酒の中身は大まかにいえば水とエタノール(飲用アルコール)だが、発酵や蒸留、樽熟成の過程では、それ以外にも無数の微量成分が生まれる。この副生成物の総称がコンジナーで、メタノール、アセトン、フーゼル油(高級アルコール類)、各種の有機酸、そしてタンニンなどが含まれる。
コンジナーは酒に色・香り・コクを与える「個性の源」でもある。逆にいえば、色や風味が濃厚な酒ほどコンジナーを多く含む傾向がある。樽由来の色素を含むウイスキー、ブランデー、ダークラム、赤ワインは総じて高く、蒸留を繰り返して雑味を削ぎ、無色で出荷されるウォッカやジンは低い。「色の濃さ」と「悪酔いのしやすさ」がなんとなく結びついて語られてきたのは、両者の背後にコンジナー量という共通因子があるからだ。
バーボン対ウォッカ、実験が示したこと
この経験則を実際に検証した研究がある。米ブラウン大学のロブソノウらが2010年に発表した研究では、21〜33歳のよく飲む健康な成人95人に、ある夜はバーボン、別の夜はウォッカを同量のアルコール相当まで飲んでもらい、翌日の状態を比較した。バーボンはウォッカのおよそ37倍ものコンジナーを含む。結果、二日酔いの自覚症状はバーボンを飲んだ翌日のほうが明確に重かった(ただし翌日の作業成績そのものはどちらも同程度に低下した)。コンジナーが二日酔いの重さに関与していることを示す、よく引用されるデータだ。
悪玉として名指しされる「メタノール」
数あるコンジナーのなかでも、とりわけ疑われているのがメタノール(メチルアルコール)だ。メタノールはそれ自体というより、体内で代謝されてできるホルムアルデヒドと蟻酸(ぎさん)が強い毒性を持つ。やっかいなのは代謝の順番で、体はエタノールを優先的に処理するため、メタノールは分解が後回しにされ、長く体内にとどまる。エタノールが抜けきったころに毒性の高い代謝物へと変わり、頭痛や倦怠感を長引かせる——というのが有力な見方だ。かつて二日酔いの主犯とされたフーゼル油は、その後の研究で主因ではないと考えられるようになっており、犯人像も少しずつ書き換えられている。

それでも「色」は絶対ではない
ここで大切な留保を置きたい。二日酔いの最大の要因は、コンジナーの種類以前に「摂取したアルコールの総量」である。どれだけ低コンジナーの酒でも、飲みすぎれば脱水と代謝負荷でしっかり二日酔いになる。コンジナーはあくまで「同じ量を飲んだときに差を広げる二次的な要因」にすぎず、その効き方には個人差も大きい。色の薄い酒に替えれば安心、という話ではないのだ。
裏を返せば、クリーンさを突き詰めた酒は総じてコンジナーが少ない。連続式蒸留で雑味を削ぎ落とした軽やかなグレーンウイスキーは、その代表格といえる。
このコラムの関連
関連するボトル

次に読む

なぜウイスキーボンボンは、食べると酔う・運転できないことがあるのか——砂糖の殻に酒を閉じ込めた菓子の秘密
冬の贈り物の定番、ウイスキーボンボン。お菓子なのに「食べてすぐ運転してはいけない」と言われるのはなぜか。砂糖の殻の中に液体の酒を閉じ込める職人技、1個に入る酒の量、そして子どもや運転で気をつけたい理由まで読み解く。

なぜお酒に酔うと「本音が出る」「人が変わる」のか——ブレーキが外れる脳のしくみ
酔うと口が軽くなり、人によっては人格まで変わって見える。「酒の上でこそ本音が出る」は本当なのか。前頭前野のブレーキが外れる仕組みと、注意が狭まる「アルコール・マイオピア」、そして「酔った自分は別人格」という感覚に含まれる思い込みを、脳科学と心理学の研究から読み解く。






