なぜアーリータイムズは、アメリカで「バーボン」と名乗れないのか——中古樽を使い始めた1980年代と、日本の棚の黄色いラベル
日本ではバーボンの定番として親しまれたアーリータイムズ。ところが本国の標準品のラベルに「バーボン」の文字はない。熟成の一部に中古樽を使い始めた1980年代の経緯から、日本のイエローラベル、2017年復活のBiB、「アメリカン・ブレンデッド」のホワイトまで、一つの名前に三つの法的な顔が並んだ理由をたどる。
日本の酒屋やスーパーで、黄色いラベルのアーリータイムズを見かけたことがある人は多いだろう。手頃な値段のバーボンの定番として、長く棚に並んできた一本だ。
ところが本国アメリカでは、同じ名前の標準品のラベルに「バーボン」の文字がない。そこに書かれているのは「ケンタッキー・ウイスキー」である。
同じブランドが、国によってバーボンだったり、そうでなかったりする。さらに近年は、日本向けに「アメリカン・ブレンデッド・ウイスキー」まで加わった。この記事では、ひとつの銘柄がなぜこれほど多くの呼び名を持つことになったのかを、ブランドの来歴とアメリカの法律からたどる。
1860年、ケンタッキーの「アーリータイムズ駅」から
アーリータイムズは、1860年にケンタッキー州で生まれたブランドとされる。ブランド側は1860年創業をうたうが、1863年の創業とする資料や、1866年に蒸溜所を構えたとする資料もあり、細部の年代は一致していない。
創業者として名前が挙がるのは、ジョン・ヘンリー・"ジャック"・ビーム。ジムビームで知られるビーム家の一員だ。のちにバーズタウンの東3マイルほど、ネルソン郡の鉄道沿いに蒸溜所を構えた。その場所は「アーリータイムズ駅(Early Times Station)」として知られるようになる。
名前の由来は、「昔ながら(アーリータイムズ)の造り方」でウイスキーを造るという信念にあると説明されている。開拓時代のケンタッキーを思わせる名前だ。
禁酒法を「薬」で生き延び、全米一の座へ
転機は禁酒法だった。ネルソン郡の蒸溜所は1918年に蒸溜を止め、1923年、ブランドと熟成中の原酒はブラウン・フォーマン社の手に渡る。
ブラウン・フォーマンは、禁酒法の下でも「医療用ウイスキー」の販売を認められた数少ない会社のひとつだった。薬局で処方箋と引き換えに売られたウイスキーの一角を、アーリータイムズが担っていたことになる。
禁酒法が明けると、アーリータイムズは急成長する。1950年代には、アメリカで最も売れるバーボンになったとされる。
1980年代、樽の一部を「中古」に替えた
では、なぜ本国でバーボンを名乗らなくなったのか。理由は樽にある。
アメリカの連邦規則(27 CFR 5.143)では、バーボンは「内側を焦がした新品のオーク樽」で熟成させなければならない。一度でも酒を入れた樽で寝かせた原酒は、どれほどトウモロコシを使っていても、バーボンとは名乗れない(なぜバーボンは新品の樽しか使えないのか)。
1980年代の初め、ブラウン・フォーマンはアーリータイムズの原酒の一部を、中古の樽で熟成させるように切り替えた。時期は1982年とも1983年とも伝えられる。同じころ、度数も80プルーフ(40%)になった。
中古樽の原酒が少しでも混ざれば、全体はもうバーボンではない。こうしてアメリカ国内向けの標準品は「ケンタッキー・ウイスキー」として売られることになった。当時はアメリカでバーボンの売れ行きが落ち込んでいた時期で、コストを抑える狙いがあったとみられている。ただ、会社が理由を公式に説明した資料は見当たらない。
日本の黄色いラベルは「バーボン」として売られてきた
一方、アメリカの外では事情が違った。輸出向けのアーリータイムズは、引き続きバーボンとして売られてきた。
日本で長く販売を担ってきたアサヒビールも、2019年のパッケージ刷新の際、イエローラベルを「クラシックなロングセラーバーボン」と紹介していた。活性炭でろ過して熟成中に出た不純物を除いた、軽やかで甘い香りの一本という位置づけだった。

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