なぜフォアローゼズは一度「安酒」に落ち、キリンの手で甦ったのか——四輪のバラに込めたプロポーズと、日本が救ったバーボン
黄色いラベルのバーボン、フォアローゼズ。「四輪のバラ」に秘めたプロポーズ伝説から、禁酒法を生き延びた強かさ、シーグラム時代の転落、そして日本のキリンによる再生まで、一杯の背景をたどる。
黄色いラベルに、四輪のバラ。スーパーやコンビニの棚でも見かける、手に取りやすいバーボン——それがフォアローゼズです。けれどこの銘柄の後ろには、ひとりの男のプロポーズにまつわる甘い伝説と、いちどは「安い混ぜ物ウイスキー」に落ちぶれ、日本の企業の手で甦った数奇な歴史があります。名前の由来から、その転落と再生までをたどってみましょう。
「四輪のバラ」に込められたプロポーズ
フォアローゼズの名は、創業者ポール・ジョーンズ・ジュニアが商標を登録した1888年にさかのぼります。ブランドが語り継いでいるのは、こんなロマンスです。
ジョーンズは南部のある美しい女性に恋をし、長く求婚を続けていた。色よい返事をくれるなら、次の舞踏会に「四輪のバラのコサージュ」をつけてきてほしい——そう伝えたところ、彼女は約束どおり四輪のバラを胸に会場へ現れた。その喜びを永遠に残すために名づけたのが「フォアローゼズ(四輪のバラ)」だった、という物語です。
ただし、これはあくまでブランドが公式に語り継ぐ「愛の物語」で、確かな裏づけがあるわけではありません。名前は別の由来(ローズ姓の一族に関係するという説など)ではないか、とする見方もあります。ロマンチックな逸話ほど独り歩きしやすいもの。ここでは「そう語り継がれている」として楽しむのがよさそうです。
禁酒法をくぐり、やがて「輸出専用」になった
物語が波乱含みになるのはここからです。1920年に始まった禁酒法の時代、多くの蒸留所が酒を造れずに姿を消しました。ところがフォアローゼズを擁したフランクフォート蒸留所は、「薬用ウイスキー」の販売を認められた数少ない(6つとされる)蒸留所のひとつとして生き延びます。医師が処方箋を書き、薬局で酒が渡される——という抜け道のなかで、フォアローゼズはむしろ売れ、一時はアメリカで売れるウイスキーの6本に1本を占めたとも言われます(禁酒法下で酒が薬局に並んだ事情は「なぜ禁酒法時代のアメリカでウイスキーは「薬局」で売られていたのか」でも触れています)。
転落はむしろ、禁酒法明けのあとに訪れます。1943年、フォアローゼズは大手酒類会社シーグラムに買収されます。そしてシーグラムは1950年代の終わりごろ、アメリカ国内での「ストレートバーボン」の販売をやめてしまいました。
このとき何が起きたか。良質なストレートバーボンは主にヨーロッパや日本など輸出向けに回され、アメリカ国内では「フォアローゼズ」の名前が、中性スピリッツを主体とした安価なブレンデッドウイスキーに使われるようになったのです。結果、本国アメリカでは「安酒」の代名詞のように扱われる一方、日本やヨーロッパでは上質なバーボンとして愛され続ける——という不思議なねじれが生まれました。フォアローゼズがアメリカ国内で再びストレートバーボンとして買えるようになるのは、じつに1995年以降のことです。
つまり、日本の愛好家が親しんできた「まっとうなフォアローゼズ」は、本国のアメリカ人がしばらく飲めなかった味でもあったわけです。
日本のキリンが救ったバーボン
転機は2002年。ヴィヴェンディ、続いてディアジオ/ペルノ・リカールの手を経て、フォアローゼズは日本のキリンの傘下に入ります。
ここから復活劇が始まります。1966年からシーグラムで働いてきたマスターディスティラー、ジム・ラトリッジが本国でのストレートバーボン復活を主導。2004年にシングルバレル、2006年にスモールバッチをアメリカ市場へ送り出し、かつて「安酒」に落ちていた名は、ふたたびプレミアムバーボンとして評価を取り戻していきます。
日本人が長く愛してきたバーボンを、日本の企業が本国で立て直した——というのは、なかなか味わい深い縁です。キリンといえば富士山麓に世界屈指のグレーンウイスキー工場を持つ「知る人ぞ知る」造り手ですが、その懐の深さはこんなところにも表れています。

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