「6日で20年もの」は造れるのか——ウイスキーの熟成を早める技術と、「15年には似せられるが5年には似せられない」という告白
数日で数十年ぶんの熟成を再現すると謳う装置は、10年以上前から存在する。それでも棚の一本が今も何年も待たされているのはなぜか。技術者の言葉と、各国の条文から読み解く。
「12年」と書かれた一本を手に取るとき、私たちは十二年前に下された判断の結果を飲んでいる。ウイスキーづくりでいちばん高くつくのは、原料でも人手でもなく、待つことだ。
その前提を疑い続けてきた顔ぶれがいる。数日で数十年ぶんの熟成を再現できる、と言う人たちである。
「6日で20年」と発表した会社
2015年、アメリカのロスト・スピリッツが、THEA(Targeted Hyper-Esterification Aging)と名づけた反応器を公開した。若い酒をオーク材とともに加熱して木から成分を引き出したうえで、特定の波長域の強い光を当て、エステル化という反応を一気に進める。同社の特許は「光と熱による蒸留酒の急速熟成法」と題され、華氏140〜170度で24〜336時間加熱し、400〜1000ナノメートルの光を2時間以上当てる工程を請求している。これによって、6日で20年熟成の酒と同じ化学的シグネチャーに到達する——というのが主張だった。同社はガスクロマトグラフの分析を載せた資料を公開していたが、査読を経た論文ではない。
同じ方向を向いた会社はほかにもある。テレセンティアは超音波と熱と酸素を組み合わせる TerrePURE という方式を掲げていた(同社はのちに社名を変え、この方式から距離を置いている)。クリーブランド・ウイスキーは圧力・酸素・温度を制御する装置を使うと説明している。ただし後者の創業者トム・リックスは「熟成時間を早める方法とは考えていない。木から抽出される風味を管理する、より効率的な工程だと思う」と語っており、当事者の側が「早送り」という言い方から距離を置く例もある。
そして、これは新しい発想でもない。急速熟成の研究は1930年代から続いていて、1949年の論文はすでに、禁酒法明けの一時期には急速熟成がそれなりの重みを持っていたが「その後、ほぼすべての蒸溜業者が完全に手を引いた」という趣旨を書き残していた。八十年を経ても、業界は同じ問いの前に立ち続けている。
樽の中では、三つの仕事が同時に進んでいる
熟成を早められるかを考える前に、樽の中で起きていることを分けておきたい。
ひとつ目は、木から溶け出すもの。バニラの香りのもとになるバニリン、甘い樽香のもとになるラクトン、そして色とタンニン。
ふたつ目は、木と炭が引き取るもの。硫黄っぽさのような新酒の粗さが、吸着によって削られていく。
みっつ目は、時間と空気が変えるもの。ゆっくりした酸化と、酸とアルコールが結びつくエステル化である。
温度を上げ、酒と木との接触を増やせば、ひとつ目とふたつ目は確かに速くなる。みっつ目も、反応速度そのものは温度で上がる。つまり「早める」こと自体は、原理として不可能ではない。問題は、早めた先が同じ場所かどうかだ。
「15年には似せられるが、5年には似せられない」
ロスト・スピリッツのブライアン・デイヴィスは、取材にこう答えている。15年ものや20年ものの化学的シグネチャーには合わせられる、しかし5年ものの化学的シグネチャーには合わせられない、と。
一見すると奇妙な告白だが、筋は通っているように思う。長く寝かせた酒は、木由来の成分が積み上がりきった状態で、輪郭がはっきりしている。狙って再現する的としては、むしろ大きい。いっぽう若い酒は、抜けきらない粗さと出はじめの甘さが中途半端に同居した、過渡期の姿をしている。
加速とは、同じ道を早送りすることではなく、別の道を通って別の地点に着くことなのかもしれない。この告白は、そう言っているように読める。
条文は「時間そのもの」を求めている
スコッチの規則(Scotch Whisky Regulations 2009)は、容量700リットル以下のオーク樽で、スコットランド国内で、3年以上熟成させることを求めている。そのうえで、加えてよいものを水とプレーンカラメルだけに限っている。反応器や木片で工程を短縮する余地は、条文の側に用意されていない。
アメリカはやや事情が違う。バーボンそのものに最低熟成期間はない(「ストレート」を名乗るには2年以上が要る)。ただし年数表示は別で、連邦規則(27 CFR 5.1)は、バーボンなどについての「Age(熟成年数)」を「チャーした新しいオークの樽に貯蔵されていた期間」と定義している。装置や木片で足した風味は、ラベルの数字にはならない。
日本の条文には、樽も年数も出てこない
では日本はどうか。酒税法のウイスキーの定義(第3条第15号)は、発芽させた穀類と水を使って糖化・発酵させたものを、留出時のアルコール分95度未満で蒸留したもの——という組み立てで、熟成期間も木製容器も要件に入っていない。国税庁の解釈通達が補っているのも、着色に使える色素を当分の間カラメルに限る、といった内容である。
その空白を埋めているのが、業界団体が2021年4月に施行した「ジャパニーズウイスキー」の表示基準だ。700リットル以下の木製樽に詰め、日本国内で3年以上貯蔵することを求めている。法律ではなく、名乗りのルールとして時間が書き込まれた、という順番になっている。
条文の内側で「早める」ことは、ずっと行われてきた
とはいえ、熟成を速める工夫がすべて禁じ手なのではない。気候と樽で、速度は大きく変わる。インドや台湾の蒸溜所は、気温の高い環境で反応も蒸発も速く進むことを利用し、年数表示を持たない若い酒でも濃い味わいを出してくる。
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