風邪のときウイスキーは効くのか——ホットトディと卵酒、「効いた気がする」の正体は温かさと蜂蜜のほう
風邪のひきはじめにホットトディや卵酒——東西に共通する言い伝えは本当か。温かい飲み物と蜂蜜には一定の裏づけがある一方、アルコールは睡眠・水分・薬の面で逆効果になりうる。研究とUSDAの数字で切り分ける。
喉がいがらっぽい夜に、温めたウイスキーに蜂蜜とレモンを落とす。英語圏では「ホットトディ」、日本では日本酒に卵を溶いた「卵酒」。洋の東西を問わず、風邪のひきはじめには温かい酒という言い伝えがある。
では、本当に効くのか。結論を先に書いておくと、「効いた気がする」には理由がある。ただ、その理由はアルコールではない。この記事では、ホットトディと卵酒のどこが体を楽にしていて、どこが逆に足を引っぱっているのかを、研究と数字で切り分けてみる。
なお、以下は一般的な話であって、治療の助言ではない。熱が高い、長引く、持病や服薬がある——そういうときは医師や薬剤師に相談してほしい。
ホットトディと卵酒——東西で同じ発想が生まれた
ホットトディは、ウイスキーなどの蒸溜酒に湯・砂糖や蜂蜜・レモンや香辛料を合わせた温かい飲み物だ。「トディ」の語はもともとインドの椰子の樹液の酒を指すヒンディー語に由来するとされ、温かい混成酒の意味では18世紀後半には用例が見られる。スコットランド起源とする逸話も語られるが、決め手はない。作り方はホットウイスキーの作り方にまとめている。
卵酒は、温めた日本酒に溶き卵と砂糖を混ぜたもの。江戸時代の文献にも登場するとされ、風邪の夜の家庭の一杯として長く語り継がれてきた。
材料はまるで違うのに、**「温かい」「甘い」「酒が入っている」**という三つの要素は共通している。効き目を考えるには、この三つを分けて見るのが近道だ。
楽になる理由その1——「温かい飲み物」そのもの
英カーディフ大学の風邪研究センターが2008年に発表した小さな試験がある(Sanu & Eccles, Rhinology)。風邪やインフルエンザの症状がある30人に、同じ果汁飲料を「温かい状態」と「室温」で飲んでもらい、症状を比べた。
結果は興味深い。温かい飲み物は、鼻水・せき・くしゃみに加えて、喉の痛み・寒気・だるさまで、すぐに、しかもしばらく和らげた。室温の飲み物で和らいだのは鼻水・せき・くしゃみだけだった。一方で、機械で測った鼻の通りは変わらず、変わったのは本人が感じる通りやすさのほうだった。
著者らはその理由を、プラセボ効果と、唾液や気道の分泌が促される生理的な作用で説明している。つまり、ホットトディを飲んで楽になったと感じるとき、そのかなりの部分は**「温かくて、おいしい飲み物を口にしたこと」**で説明がつく。お茶でも、白湯でも、同じことは起きうる。
楽になる理由その2——ひとさじの蜂蜜
ホットトディに入る蜂蜜にも、それなりの裏づけがある。子どもの急性のせきを扱ったコクラン・レビュー(2018年)は、蜂蜜は何もしない場合やプラセボに比べて、せきをおそらく和らげると結論している。根拠の確かさは「中程度」で、プラセボとの差がはっきりしたのは3日程度までだった。対象はあくまで子どもで、大人にそのまま当てはまるとは限らない点も添えておく。
もうひとつ大事な注意がある。1歳未満の乳児には蜂蜜を与えてはいけない。乳児ボツリヌス症の危険があるためで、同レビューの試験もすべて1歳以上が対象だ。
一方の卵酒については、卵白に含まれるリゾチームが効くといった説明を見かける。ただ、飲み物として風邪に効くことを示した研究は、筆者が調べた範囲では見当たらなかった。卵酒で楽になる理由も、まずは「温かくて甘い飲み物」という共通項で考えるのが妥当だろう。
では、アルコールは何をしているのか
ここからが本題だ。温かさと蜂蜜が楽にしてくれるのなら、酒の部分は何をしているのか。
まず、体が温まる感覚。アルコールは皮膚の血管を広げるので、飲むと体がぽかぽかする。ただしこれは熱を外へ逃がしている状態でもあり、体の芯が温まっているわけではない(詳しくはなぜウイスキーを飲むと体が温まるのか)。寒気のする夜に「温まった」と感じるのは、半分は錯覚だ。
次に、眠気。少量の酒で寝つきがよくなるのは確かだが、アルコールは夜の後半の眠りを浅くする(なぜお酒を飲むと眠りが浅くなるのか)。体を休めたい夜に、睡眠の質を削ることになる。
さらに、脱水。アルコールには尿を増やす作用がある(なぜお酒を飲むとトイレが近くなるのか)。熱や汗で水分を失いやすいときに、これは向かい風だ。
そして免疫。米国立アルコール乱用・依存症研究所(NIAAA)の学術誌に載った総説(2015年)は、大量の飲酒と肺炎などへの防御の低下との関連は古くから知られ、慢性的な飲酒だけでなく一度の大量飲酒(ビンジ)も免疫に影響すると整理している。
「適量なら風邪をひきにくい」研究はどう読むか
逆の話もある。1993年に米国の公衆衛生学誌に載った研究(Cohen ほか)では、意図的にかぜウイルスにさらした391人を調べたところ、ふだん適度に飲む非喫煙者は、発症のリスクが低い傾向があった。喫煙者ではこの傾向は見られなかった。
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