なぜオーヘントッシャンは「三回蒸留」を守り続けるローランドの雄なのか——グラスゴーの外れで、一滴残らず三度蒸留する蒸溜所
ほとんどのシングルモルトが二回蒸留で造られるなか、グラスゴー郊外のオーヘントッシャンは全量を三回蒸留し続ける。度数81%に達する澄んだ原酒が生む繊細な味わいと、戦火や日本資本のもとでの歩み、ローランドの雄が愛される理由をたどる。
「ウイスキーの蒸留は二回」——そう覚えている人は多い。実際、スコッチのシングルモルトはたいてい、二基の蒸留器(ポットスチル)で二度蒸留してつくられる。ところがグラスゴーのすぐ外れに、その常識をあえて外し、造るウイスキーを一滴残らず「三回」蒸留し続ける蒸溜所がある。ローランドの雄、オーヘントッシャンだ。読みにくい名前とは裏腹に、その一杯は驚くほど軽やかで飲みやすい。なぜこの蒸溜所は、手間のかかる三回蒸留を頑なに守り続けるのか。
「三回蒸留」という少数派の選択
多くの蒸溜所は、まず「初留釜」でもろみを蒸留して度数の低い液体を取り、それを「再留釜」でもう一度蒸留して、およそ70%前後の原酒に仕上げる。オーヘントッシャンはここに三基目——中間の蒸留器を挟む。もろみは初留・中留・再留と三度も銅の釜をくぐり、最後に出てくる原酒はおよそ81%(162プルーフ)に達する。これはスコットランドのシングルモルト蒸溜所として最も高い数字だ。
度数が高く仕上がるほど、雑味のもとになる重い成分は削ぎ落とされ、酒質は軽く澄んでいく。三回蒸留がもたらすのは、この「引き算」の味わいだ。二回蒸留がなぜ標準になったのかは別稿にゆずるが、オーヘントッシャンはあえてもう一手間をかけ、繊細さという個性を選び取っている。
そのルーツは、アイルランドとローランドにある
三回蒸留は、もともとアイルランドのウイスキーで広く使われてきた手法だ。そしてスコットランドでも、かつてローランド地方の蒸溜所では珍しくなかったと言われる。大麦以外の穀物も扱う蒸溜所が多く、より軽い酒質が好まれた地域だったからだ、とも言われている。
時代が下り、多くの蒸溜所が効率のよい二回蒸留へ移っていくなかで、オーヘントッシャンは造るすべてを三回蒸留するという流儀を手放さなかった。長らく「全量を三回蒸留するスコットランド唯一の蒸溜所」と呼ばれてきたゆえんである(近年、休止から復活したローランドのローズバンク蒸溜所がこの実践に加わった)。スチルの形や蒸留のしかたが酒質をどう変えるのかに興味があれば、ポットスチルの形と酒質の関係もあわせて読むと像を結びやすい。
グラスゴーの外れに立つ、「朝の一杯」
オーヘントッシャンが建つのは、グラスゴー北西のクライドバンク、キルパトリック丘陵のふもとだ。創業は1823年。ゲール語で「畑の隅(Achadh an Oisein)」を意味するという名のとおり、大都市のすぐそばにありながら、丘に抱かれた立地にある。
ピート(泥炭)を焚かない麦芽と三回蒸留が組み合わさることで、その味わいはスモーキーで重厚なスコッチとは対極の、レモンや青いりんごを思わせる軽やかでクリーンなものになる。あまりに飲みやすいことから、親しみを込めて「朝の一杯(ブレックファースト・ウイスキー)」「グラスゴーのモルト」などと呼ばれることもあるほどだ。ウイスキーの入口として、これほど身構えずに飲める一本もそうない。

このコラムの関連
関連するボトル


次に読む

なぜ蒸溜所は、酒を造る工場なのに見学者を招き入れるようになったのか——1969年に開いた一枚の扉と、年270万件の訪問
蒸溜所はもともと、一般客に語る動機がない場所だった。1969年にグレンフィディックが開いた受付棟から、年270万件の訪問を集める産業へ。蒸溜所見学が生まれた理由と、日本の人気蒸溜所で製造現場が抽選制になった事情をたどる。

なぜジョニーウォーカー ブルーラベルは、年数表記がないのに「最高峰」なのか——初期ボトルに刷られた「15〜60年」と、静かに消えた一行
ブラックラベルは「12年」と刻むのに、シリーズの頂点に立つブルーラベルには年数がない。1987年に「オールデスト」として生まれた一本の、初期ラベルに刷られていた「15-60年」という一行の行方をたどる。






