なぜウイスキーの樽は、いまも「豚の頭」と呼ばれるのか——重さの単位トンを生んだ中世の目盛りと、5つを4つに組み直す職人
ホグスヘッド=豚の頭、バット、パンチョン、タン。ウイスキー樽の奇妙な名前は、中世イングランドの容量単位の生き残りだ。重さの「トン」の出どころ、600年決着しない豚の頭の謎、そして700リットルという法律の線をたどる。
蒸溜所の説明書きや、愛好家の会話に、ときどき妙な言葉が出てくる。「これはホグスヘッドで熟成されています」。
ホグスヘッド(hogshead)。分解すれば hog(豚)と head(頭)である。琥珀色の酒が何年も眠る器が、なぜ豚の頭なのか。
しかも樽の呼び名には、ほかにも「バット」「パンチョン」「タン」といった、正体のつかめない単語が並ぶ。これらはウイスキー業界が思いつきで付けたものではない。数百年前のイングランドで、酒を量って売るために使われていた単位が、そのまま生き残ったものだ。
樽の名前は、もともと「分数」だった
中世から19世紀初めにかけて、イングランドではワインの取引に専用の容量単位が使われていた。頂点にあるのがタン(tun)で、252ワインガロン。そこから下は、すべてタンの分数として決まっている。
- パイプ/バット=2分の1(126ガロン)
- パンチョン=3分の1(84ガロン)
- ホグスヘッド=4分の1(63ガロン)
- ティアース=6分の1(42ガロン)
- バレル=8分の1(31.5ガロン)
- ランドレット=14分の1(18ガロン)
もともとタンは256ガロンだったが、15世紀より前に252へ下げられている。理由は素っ気ない——7を含む小さな整数で、きれいに割り切れるようにするためだ。そして1423年の法令が、このうちホグスヘッドを63ガロンと定めている。
つまり樽の名前は、味の話でも木の話でもない。税と流通のための物差しだった。
重さの「トン」は、この樽から生まれた
ここで思わぬ副産物が出ている。重量の単位トン(ton)である。
語源辞典 Etymonline は、ton は tun とまったく同じ語だと明記する。14世紀後半には「タン1つを満たすのに必要な量」を指し、やがて容器そのものから中身の量へ、さらに重さへと意味が移っていった。法定の重量単位としての記録は15世紀末にさかのぼる。
なぜ重さに転じられたのかは、数字を見れば分かる。ワインを詰めたタン1つは、樽ごと量っておよそ1ロングトン——2,240ポンド、約1,016キロにあたる。船の大きさを「トン数」で表すのも、もとをたどれば「ワイン樽をいくつ積めるか」という話である。
酒樽が、重さと船の単位になった。
「豚の頭」の由来は、いまも決着していない
肝心のホグスヘッドに戻る。
この語が英語に現れるのは14世紀末。綴りのとおり「豚の頭」である。1423年の法令が63ワインガロン(約240リットル)と容量を定め、15世紀半ばの『グレゴリーのロンドン年代記』には hoggys hedys of wyne(ワインのホグスヘッド)という形が見える。
では、なぜ豚の頭なのか。19世紀の文献学者ウォルター・スキートは、これを英語側の訛りだと考えた。オランダ語の oxhooft、デンマーク語の oxehoved、古スウェーデン語の oxhufvod——大陸には「牛の頭(ox-head)」を意味する同種の語が並ぶ。もとは牛の頭で、樽の鏡板に牛の頭を焼き印したことに由来するのではないか、という説だ。ドイツのビールの古い単位 bullenkop との連想も語られる。
魅力的な話だが、裏付けは乏しい。専門メディア Scotchwhisky.com によれば、牛の頭を焼き印したという証拠はなく、さらに厄介な反論もある。オランダ語で牛は ox ではなく os であること。そしてオランダ語には、もっと古い樽の語 hukeshovet や hoekshoot が存在すること。
方向がむしろ逆だ、という見方も強い。英語版ウィクショナリーは、hogshead という語がしばしば他言語へ「牛の頭」として借用された、と記す。Etymonline も、他のゲルマン諸語へ ox-head として借用されたとしたうえで、大陸側の語形はむしろ英語から渡ったことを示唆する、と書いている。
さらに、ラブレーの仏語作品をスコットランドの文人トマス・アーカートが英訳した版(第3之書は没後の1693年刊)に hogshide という形があり、これが古いスコットランド語なのか、訳者が作った新語にすぎないのかという議論もある。
Scotchwhisky.com の結論は率直だ。この語の出どころは、いまも霧の中にある。世界でもっとも使われるウイスキー樽のひとつは、名前の意味が確定しないまま現役でいる。
「バット」は尻ではない
もう一つ、誤解されやすい名前がある。シェリー樽の代表格、バット(butt)だ。
英語の butt には「尻」の意味があるので、そちらを連想したくなる。だが辞書はこの二つを別々の項目として立てている。樽のバットは中世英語の bote / butte にさかのぼり、古フランス語の bot(樽、革袋)、後期ラテン語の buttis(樽)につながるとされる。一方、尻や太いほうの端を指す butt はゲルマン系の別語だ。たまたま同じ綴りになっただけの他人である。
シェリーを寝かせたバットは、いまもシェリー系スコッチの主力の器である。
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